ゲッターロボ-The beginning- 004(第1章) ― 2008年03月22日 04時43分08秒
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「う〜ん……」
研究室の床に寝かされていたチンピラヤクザが目を覚ます。
が、起きるなり「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」と叫び声を上げて、再び泡を吹いて失神してしまう。
それはまるで、世にも恐ろしい何かを見たかのような絶叫だった。
「……早乙女君、なんだねコイツは?
人の顔を見るなりまた気絶しおったぞ」
敷島教授がチンピラヤクザを覗き込んでいたのだ。
「いやぁ、ソレは無理も無いかと……」
早乙女が苦笑いをする。
敷島教授——早乙女が通う大学院で教鞭を取る、早乙女の師匠とも言える人物である。
敷島自身が過去に行った実験の失敗による事故が原因で、その顔の半分は焼けただれており、引きつった筋肉が左右の目の大きさを変えてしまっているのだ。
そんな敷島の姿が不意に視界に飛び込めば、気を失ってしまうのも無理は無い。
デブとヤセの二人のチンピラがあわてて介抱すると、顔に二の字の下駄の跡を付けたチンピラが、ようやく息を吹き返した。
彼の話の内容はこうであった。
早乙女がこの地域で一番力を持っていた<羅王組>を壊滅してしまったために、この地区のヤクザ組織の空洞化が起こり、全国支配を目論む広域暴力団が手を伸ばして来たのである。と。
地元密着型の小さなヤクザ組織である自分達<青空組>は<羅王組>とは不可侵の条約を結んでいたものの、<羅王組>が壊滅してしまった今、その広域暴力団<天地会>は非道な手段を用いて<青空組>のシマを取り上げようといているのだ。
そのためにも、少しでも腕っぷしの強い構成員を探していた所、街中で暴れている竜崎という男を見付け、スカウトしたのだという話である。
つまるところ話の大元としては、ヤクザの縄張り争いが起因するらしい。
そしてその起因には、早乙女も無関係では無いとの意味合いを含んでいた。
「でもね、早乙女の旦那。聞いてくださいよ。
その竜崎って野郎はムチャクチャな野郎で、普段は大人しいんですが突然暴れ出しては組の机や壁、そこら中の物を壊しまくるし、兄貴分のオレらの言う事なんざ聞きもしねー、手の付けられないとんでもねーヤツだったんですよ。
ハジキが飛び交う中も平然と突き進みやがるんで、そりゃ天地会との小競り合いの時なんかには役に立ちましたけど、一旦暴れ出すとそこらに居るカタギの人間にまで無差別に手を出して、殺しちまうんじゃねーかって騒動も一度や二度じゃすまねーって始末でして。
この間なんざ、それじゃ流石にマズイだろってんで、組長に頼んでそんな竜崎をいさめてもらおうとしたら、逆に顎の骨を砕かれましてね。組長、今入院なさってるんですよ。
本来、親に手ぇ上げたそんな野郎は破門どころかコンクリ詰めにして海にでも沈めちまうトコロなんですが、なにぶんこんな状況ですから力のある駒は欲しい。と、組長も寛大なお心を示してくださった。
なのに、組長不在をいいことに『天地会に対抗するには今の組長じゃ生温い』なんて一派が、竜崎の奴を祭り上げ始めちまいまして、ウチの組、もう今メチャクチャなんでさ。
組長に大恩のあるアッシらにしてみれば、この組の一大事に指をくわえて黙っているワケにも行かず。
そんな時に早乙女の旦那のお噂を聞きつけ、お知り合いでもある竜崎の奴に、ガツンと一発お灸をすえていただけねーモンかと。
こうして頭を下げにお願いしに来た次第であります。
それにしてもあの竜崎って奴ぁ、何ですかね、バケモンってでも言うんですかね?
刀で切りつけられても、切りつけた刀の方が折れちまいますし、とうてい人間とは……」
「ああ、もういい。わかったから」
このチンピラは、本来緊張さえしなければきっと大阪のオバサンみたいなオシャベリな性格なのであろう。
喋りたい気持ちが喋るという行為より先に来てしまうから、不必要に舌を咬んでしまうのだ。
マシンガンのように息つくヒマも無く一気に喋り倒すチンピラを、もう充分だとばかりに制止し、早乙女は腕を組んだ。
「アンタの話を疑う訳じゃ無いが、それ、ホントに竜崎か?」
「ええ、紛れもなく竜崎達也の事でさ。早乙女の旦那の話も、竜崎の奴から聞いた事がありやしたんで、今こうしてお話させていただけてやす」
「まさかてめー、竜崎にヤク打ったりしてねーだろーな。
今じゃヒロポンだって違法なんだぜ」
「め、滅相も無い。天地会のヤツラならどーだか知らねーケド、ウチではヤクは御法度なんでさ。
組長にきっつく戒められてやす」
早乙女は口をヘの字に結び、考え込んだ。
チンピラの話が本当ならば、それは早乙女にとって、にわかには信じられないものであった。
早乙女の知る竜崎は、背丈こそ大柄ではあるが理論派であって肉体派では無い。典型的な学士タイプなのだ。
格闘技の経験どころか、運動関係全般に関し不得手だった筈なのである。
手より先に口の方が回る性格で、竜崎が傍若無人に暴れ回る姿など、まったく想像すら及ばない。
覚醒剤中毒でも無ければ、いったい何が竜崎の身に起きたのであろう。
「わかった、行こう。リッキー、付き合ってくれ」
ここでうだうだ考えていてもラチが開かない。
何より行方不明の竜崎の情報が思いも因らぬ形で飛び込んで来たのだ。調べる価値は充分にある。
こういう時の早乙女は、決断も早ければ行動も早い。
「え? 御助力いただけるんですか?」
チンピラヤクザの顔が明るくなった。
「別にあんたらの手助けをするつもりは無いさ。竜崎に会いに行くだけだ。
で、あんた名前は?」
早乙女はチンピラヤクザの名前を聞く。
「へい、申し遅れました。
アッシが<イボマラの竜作>。
隣のヒョロヒョロとした野郎が<七曲がり千吉>。
こっちのグラサンかけてますデブな野郎が<子宮突きの水膜>でさ。
どいつもチンケなヤクザ者ですが、どうかひとつ、お見知りおきを」
「……また随分と凄い名前だね」
こんなどーしようもない二つ名を構成員に付けて喜んでるような組ならば、天地会や竜崎とは関係無しに、もしかして潰れても当然なんじゃなかろうか?
間抜けな彼らの名前を聞いて、早乙女はこめかみを押さえた。
「いや、そんな。褒めないでくださいよ、旦那」
真顔で照れてる竜作。
ダメだこりゃ。と早乙女は心の底から思った。
「ねぇねぇ、和子達どうしようか?」
リッキーが聞く。
有線の家庭用電話もまだまだ普及率が高く無いこの時代、外に出てしまった和子に直接連絡を取る手段は当然の如く、無い。
竜崎の下宿の大家に伝言を頼むという手も、あることはあるが……
「コイツらの話もどこまで信用したものかもわかんねーし、とりあえずオレたちだけで行くしかないだろ」
それにヤクザ者とつるんで行動してると知ったら、和子の雷がまたいつ落ちるとも限らない。
それだけは何としても避けたい。という気持ちも早乙女にはある。
和子も美奈子を送ったら、また学院に戻って来ると言っていたのだ。合流するならそれからの方が連絡が取りやすいだろう。
「イボマラさん、竜崎の居場所は解るんだな?」
「へい。今の時間なら詰所の方に行ってるハズでさ」
早乙女の問いに即答する竜作。
「よし。案内してくれ」
チンピラヤクザを従え、足早に早乙女が部屋を出て行こうとした時、敷島教授が呼び止めた。
「ん? おい、早乙女君。レポートはどうするつもりだね?」
敷島教授は、早乙女のレポート制作の進行具合をうかがいに研究室に来ていたのである。
「すみません教授。ちょっと急用が出来てしまったんで、もう少し待ってもらえますか?
今日中には提出しますから」
そう言い残すと、早乙女とリッキーと三人のチンピラヤクザは研究室から飛び出して行った。
一人取り残された敷島教授は、頭をポリポリと掻きながら、とぼとぼと廊下を歩いていた。
「……仕方ないのぉ。勝手に進めとくか」
何かをぶつぶつとつぶやいた後、突然閃いたかのように、奇声のような大きな声を上げた!
「おっ! そうじゃ!! ジェネレータの出力を3倍にしてみたらどうじゃろうか!
圧縮工程に負荷がかかるが、そっちの方が破壊力が上がるしのぉ〜」
自分の発想に小躍りしながら廊下を飛び跳ねる敷島。
楽しそうである。
「いやぁ〜、早乙女君も実に興味深いエネルギー見つけたモンじゃ。
コイツを使えば、面白い兵器が色々と作れそうじゃわい。」
……実に楽しそうである。
To be continued.
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研究室の床に寝かされていたチンピラヤクザが目を覚ます。
が、起きるなり「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」と叫び声を上げて、再び泡を吹いて失神してしまう。
それはまるで、世にも恐ろしい何かを見たかのような絶叫だった。
「……早乙女君、なんだねコイツは?
人の顔を見るなりまた気絶しおったぞ」
敷島教授がチンピラヤクザを覗き込んでいたのだ。
「いやぁ、ソレは無理も無いかと……」
早乙女が苦笑いをする。
敷島教授——早乙女が通う大学院で教鞭を取る、早乙女の師匠とも言える人物である。
敷島自身が過去に行った実験の失敗による事故が原因で、その顔の半分は焼けただれており、引きつった筋肉が左右の目の大きさを変えてしまっているのだ。
そんな敷島の姿が不意に視界に飛び込めば、気を失ってしまうのも無理は無い。
デブとヤセの二人のチンピラがあわてて介抱すると、顔に二の字の下駄の跡を付けたチンピラが、ようやく息を吹き返した。
彼の話の内容はこうであった。
早乙女がこの地域で一番力を持っていた<羅王組>を壊滅してしまったために、この地区のヤクザ組織の空洞化が起こり、全国支配を目論む広域暴力団が手を伸ばして来たのである。と。
地元密着型の小さなヤクザ組織である自分達<青空組>は<羅王組>とは不可侵の条約を結んでいたものの、<羅王組>が壊滅してしまった今、その広域暴力団<天地会>は非道な手段を用いて<青空組>のシマを取り上げようといているのだ。
そのためにも、少しでも腕っぷしの強い構成員を探していた所、街中で暴れている竜崎という男を見付け、スカウトしたのだという話である。
つまるところ話の大元としては、ヤクザの縄張り争いが起因するらしい。
そしてその起因には、早乙女も無関係では無いとの意味合いを含んでいた。
「でもね、早乙女の旦那。聞いてくださいよ。
その竜崎って野郎はムチャクチャな野郎で、普段は大人しいんですが突然暴れ出しては組の机や壁、そこら中の物を壊しまくるし、兄貴分のオレらの言う事なんざ聞きもしねー、手の付けられないとんでもねーヤツだったんですよ。
ハジキが飛び交う中も平然と突き進みやがるんで、そりゃ天地会との小競り合いの時なんかには役に立ちましたけど、一旦暴れ出すとそこらに居るカタギの人間にまで無差別に手を出して、殺しちまうんじゃねーかって騒動も一度や二度じゃすまねーって始末でして。
この間なんざ、それじゃ流石にマズイだろってんで、組長に頼んでそんな竜崎をいさめてもらおうとしたら、逆に顎の骨を砕かれましてね。組長、今入院なさってるんですよ。
本来、親に手ぇ上げたそんな野郎は破門どころかコンクリ詰めにして海にでも沈めちまうトコロなんですが、なにぶんこんな状況ですから力のある駒は欲しい。と、組長も寛大なお心を示してくださった。
なのに、組長不在をいいことに『天地会に対抗するには今の組長じゃ生温い』なんて一派が、竜崎の奴を祭り上げ始めちまいまして、ウチの組、もう今メチャクチャなんでさ。
組長に大恩のあるアッシらにしてみれば、この組の一大事に指をくわえて黙っているワケにも行かず。
そんな時に早乙女の旦那のお噂を聞きつけ、お知り合いでもある竜崎の奴に、ガツンと一発お灸をすえていただけねーモンかと。
こうして頭を下げにお願いしに来た次第であります。
それにしてもあの竜崎って奴ぁ、何ですかね、バケモンってでも言うんですかね?
刀で切りつけられても、切りつけた刀の方が折れちまいますし、とうてい人間とは……」
「ああ、もういい。わかったから」
このチンピラは、本来緊張さえしなければきっと大阪のオバサンみたいなオシャベリな性格なのであろう。
喋りたい気持ちが喋るという行為より先に来てしまうから、不必要に舌を咬んでしまうのだ。
マシンガンのように息つくヒマも無く一気に喋り倒すチンピラを、もう充分だとばかりに制止し、早乙女は腕を組んだ。
「アンタの話を疑う訳じゃ無いが、それ、ホントに竜崎か?」
「ええ、紛れもなく竜崎達也の事でさ。早乙女の旦那の話も、竜崎の奴から聞いた事がありやしたんで、今こうしてお話させていただけてやす」
「まさかてめー、竜崎にヤク打ったりしてねーだろーな。
今じゃヒロポンだって違法なんだぜ」
「め、滅相も無い。天地会のヤツラならどーだか知らねーケド、ウチではヤクは御法度なんでさ。
組長にきっつく戒められてやす」
早乙女は口をヘの字に結び、考え込んだ。
チンピラの話が本当ならば、それは早乙女にとって、にわかには信じられないものであった。
早乙女の知る竜崎は、背丈こそ大柄ではあるが理論派であって肉体派では無い。典型的な学士タイプなのだ。
格闘技の経験どころか、運動関係全般に関し不得手だった筈なのである。
手より先に口の方が回る性格で、竜崎が傍若無人に暴れ回る姿など、まったく想像すら及ばない。
覚醒剤中毒でも無ければ、いったい何が竜崎の身に起きたのであろう。
「わかった、行こう。リッキー、付き合ってくれ」
ここでうだうだ考えていてもラチが開かない。
何より行方不明の竜崎の情報が思いも因らぬ形で飛び込んで来たのだ。調べる価値は充分にある。
こういう時の早乙女は、決断も早ければ行動も早い。
「え? 御助力いただけるんですか?」
チンピラヤクザの顔が明るくなった。
「別にあんたらの手助けをするつもりは無いさ。竜崎に会いに行くだけだ。
で、あんた名前は?」
早乙女はチンピラヤクザの名前を聞く。
「へい、申し遅れました。
アッシが<イボマラの竜作>。
隣のヒョロヒョロとした野郎が<七曲がり千吉>。
こっちのグラサンかけてますデブな野郎が<子宮突きの水膜>でさ。
どいつもチンケなヤクザ者ですが、どうかひとつ、お見知りおきを」
「……また随分と凄い名前だね」
こんなどーしようもない二つ名を構成員に付けて喜んでるような組ならば、天地会や竜崎とは関係無しに、もしかして潰れても当然なんじゃなかろうか?
間抜けな彼らの名前を聞いて、早乙女はこめかみを押さえた。
「いや、そんな。褒めないでくださいよ、旦那」
真顔で照れてる竜作。
ダメだこりゃ。と早乙女は心の底から思った。
「ねぇねぇ、和子達どうしようか?」
リッキーが聞く。
有線の家庭用電話もまだまだ普及率が高く無いこの時代、外に出てしまった和子に直接連絡を取る手段は当然の如く、無い。
竜崎の下宿の大家に伝言を頼むという手も、あることはあるが……
「コイツらの話もどこまで信用したものかもわかんねーし、とりあえずオレたちだけで行くしかないだろ」
それにヤクザ者とつるんで行動してると知ったら、和子の雷がまたいつ落ちるとも限らない。
それだけは何としても避けたい。という気持ちも早乙女にはある。
和子も美奈子を送ったら、また学院に戻って来ると言っていたのだ。合流するならそれからの方が連絡が取りやすいだろう。
「イボマラさん、竜崎の居場所は解るんだな?」
「へい。今の時間なら詰所の方に行ってるハズでさ」
早乙女の問いに即答する竜作。
「よし。案内してくれ」
チンピラヤクザを従え、足早に早乙女が部屋を出て行こうとした時、敷島教授が呼び止めた。
「ん? おい、早乙女君。レポートはどうするつもりだね?」
敷島教授は、早乙女のレポート制作の進行具合をうかがいに研究室に来ていたのである。
「すみません教授。ちょっと急用が出来てしまったんで、もう少し待ってもらえますか?
今日中には提出しますから」
そう言い残すと、早乙女とリッキーと三人のチンピラヤクザは研究室から飛び出して行った。
一人取り残された敷島教授は、頭をポリポリと掻きながら、とぼとぼと廊下を歩いていた。
「……仕方ないのぉ。勝手に進めとくか」
何かをぶつぶつとつぶやいた後、突然閃いたかのように、奇声のような大きな声を上げた!
「おっ! そうじゃ!! ジェネレータの出力を3倍にしてみたらどうじゃろうか!
圧縮工程に負荷がかかるが、そっちの方が破壊力が上がるしのぉ〜」
自分の発想に小躍りしながら廊下を飛び跳ねる敷島。
楽しそうである。
「いやぁ〜、早乙女君も実に興味深いエネルギー見つけたモンじゃ。
コイツを使えば、面白い兵器が色々と作れそうじゃわい。」
……実に楽しそうである。
To be continued.
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