ゲッターロボ-The beginning- 011(第2章)2008年05月26日 06時59分12秒

「和子さん!?」
 和子の悲鳴に早乙女とリッキーが慌てて角を曲がる。
 二人は和子の腕を取る二人の男の姿を見て驚愕する。
 その男達は、あたかも人の姿を模したハ虫類のように見えた。
 二足歩行をするハ虫類がトレンチコートを着て、和子を襲っているのだ。
 和子を掴むその手は鱗で覆われ、鋭い爪が伸びている。
 人間の物では無い。 
 早乙女は男達の姿に一瞬怯んだものの、買い物袋に手を入れ茹で卵を掴むと異形の者に向かって投げ付けた!
「化け物! 和子さんを放しやがれ!!」
 茹で卵は異形の者の目にヒットし、砕けた。
 卵の殻がヘビのような男の目に刺さる。
「グギャァアアァァ!!」
 男は自分の顔を押さえると掴んでいた和子の腕を放した。
 和子はその隙に逃げ出す。
 早乙女の元に駆け寄った。
 リッキーが和子を庇うように前に出て、早乙女と並ぶ。
「和子さん! 大丈夫か?」
 早乙女の問いに、ガチガチと歯を鳴らしながら和子は頷いた。
 あまりの恐怖に声は出ないが、早乙女たちが間髪入れずに来てくれたため怪我はしていない。
「さ、早乙女!! 何アレ? ば、バケモンだよ?!」
 トレンチコートの男達と相対して、まじまじとその顔を見たリッキーが驚きの声を上げた。
「ああ。オレにもそう見える」
 短気でキレ易いが、こういう異常な事態になればなるほど先ず冷静になるのが早乙女である。
「まるでハ虫類……ヘビだワニだというより……恐竜人間みたいだな、ありゃあ」
 そう、恐竜。
 人間サイズの小型の恐竜が、二本足で立っているというのが的確である。
「こ、子供が…………子供が……」
 恐怖に脅える和子が声を何とか絞り出し、震える手で草むらを指差す。
 草むらを見た二人の目に首と胴体の離れた子供の死体が目に入った。
 裂かれた胴体からは内臓が飛び出している。
 ——酷い!!
「きさまらぁ!!!」
 怒りに目の前が真っ赤になった早乙女が動き出す前に、恐竜人間は動いていた。
 草むらに目を移した一瞬の隙を狙われたのだ!
「キシャァァアアア!!」
 奇声のような叫び声を上げ、目の前に立っていた二匹の恐竜人間が早乙女に飛び掛かった。
 一匹は3メートル以上飛び上がった上空から、一匹は地を這うように足元から襲いかかる!
 速いっ!!
 早乙女は片足を軸にして回転しながら上体をひねるように一匹を交わすと同時に、足元を狙って来た一匹を蹴り上げた。
 宙を飛んで来た一匹の爪が除けきれなかった買い物を裂き、おにぎりや惣菜を地面に散らばせた。
 二匹のあまりの素早さに早乙女の反応がコンマ数秒遅れたのだ。
 リッキーは買い物袋を放り投げ腰に差していた二本のトンファーを取り出すと、その片方で早乙女が交わした一匹の顔面を打ち抜いた。
 グシャッ!!
 骨が砕ける鈍い音と共に、恐竜人間の顔がメリ込んだ!
「ギャァァァ!!!」
 叫び声を上げてのたうち回る恐竜人間。
「リッキー! 後ろ!!」
 トンファーで一匹を打ち抜いたリッキーの背後に子供を喰らっていた一匹が飛び掛かるのを見て、和子が叫んだ!
 恐竜人間の鋭い歯がリッキーの首筋を狙う。
 ガキッッ!!
 リッキーは振り向かぬままにただ腕を上げ、首筋をトンファーでガードする。
 恐竜人間の歯は鉄製のトンファーに噛み付き、折れた。
 リッキーは噛み付かれたままにトンファーを恐竜人間ごと振り回す。
 宙を泳ぐ恐竜人間。早乙女がハイキックをブチ込んだ!
「グギャ!!」
 何というコンビネーション!!
 不意を突かれた事を意にも介さない程、早乙女とリッキーの息は合っている。
「早乙女、何よコイツら?!」
「オレが知るか!!」
 こんな化け物共の事など知る訳が無い。
 唯一つ解っているのは、この異形の者共が明らかに自分達に敵意を持って襲って来ている事だ。
 しかもこの異形の者共は、尋常じゃ無い程の身体能力を持ち合わせている。
 少しでも気を抜けば、早乙女たち三人は瞬く間に草むらに転がる少年と同じ姿になってしまうであろう。
 この状況は兎に角不利だ。
 早乙女とリッキーだけならまだしも、和子を守りながらでは思う様に戦えない。
「和子さん、逃げろ! 逃げるんだ!!
 ここはオレ達がなんとかする!!」
 背中越しに和子に声を掛ける。
 和子は恐怖に震えながらも軽くうなずくと、踵を返し、走り出す。
 二人の足手まといにならぬよう和子は必死で走った。
 逃げ出す和子の姿を見付けた恐竜人間は、そうはさせじと和子に向かって跳んだ!
「させないよっ!!」
 リッキーがトンファーの握りを変える。
 突き出すように伸びたトンファーの先で跳躍する恐竜人間の腹を打ち抜く!!
 が、
「うわっ!!」
 トンファーの先端は、かすめただけだ。
 リッキーは足に激痛が走ってバランスを崩したのだ。
 足元に倒れていた恐竜人間が、リッキーの足に噛み付いていた。
「このぉ!!」
 リッキーは噛み付く一匹にトンファーを打ち下ろす!
 恐竜人間は素早く離れ、それを交わした。
 先程のリッキーの一撃で陥没しているとは思えない程の素早さである!
 人間なら確実に死んでいる筈の一撃を喰らっていても尚、奴等は俊敏に動くのだ!!
「……嘘でしょ?」
 不死身とも思える異形の者達の生命力に、リッキーは絶句した。

 リッキーが逃した和子を追う一匹を追い掛けようとした早乙女だが、トンファーで歯の欠けた恐竜人間に阻まれてしまった。
 鋭い爪が矢継ぎ早に早乙女を襲う。
 早乙女の衣服は裂け、頬には細かい裂傷が増えて行く。
「きゃぁあ!!」
 和子の短い悲鳴が上がった!
 和子が恐竜人間に殴打され、激痛に気を失ったのだ!!
「和子さん!!」
 和子の悲鳴に反応が遅れた早乙女が、歯の欠けた一匹の一撃を腹部にもらってしまう。
「ぐえっ……」
 内臓がえぐられるような一撃!!
 早乙女の腰が沈む。
 早乙女は歯を食い縛りその一撃に耐えた。
 恐竜人間は間髪入れずに早乙女の顔面を狙う!
 早乙女はさらに腰を沈め、空を切った歯欠けの一匹の腕を取り、そそまま背負い、投げた!!
 一本背負いが綺麗に決まった!
 和子を殴打した一匹は、和子の胸倉を掴みその首筋に牙を立ている。
「きさまぁ!!!」
 早乙女は二つの下駄を手にすると、和子を襲う一匹に向かって走り出すと同時にそのひとつを投げ付ける。
 投げ付けた下駄が恐竜人間の頭にヒットした。
 和子を襲う一匹が、振り返る。
 その振り返りざまに目掛けて早乙女は下駄を手にしたまま殴り付けた!
 それは走り抜ける加速の付いた、文字通り必殺の早乙女下駄パンチ!!
 宙に舞う恐竜人間。
 早乙女はその隙に和子を引き起こし、原っぱに積まれている土管の影に和子を寝かせた。
 和子の頬には殴打された跡が痛々しく腫れ上がっている。
「和子さん! 大丈夫か?! 和子さん!!」
 和子の肩を軽く揺すり、早乙女は声を掛ける。
「う……うぅ……」
 息はある。
 早乙女は安堵の溜め息を吐くと、怒りに我を忘れた。
 和子を襲った奴と歯欠けの二匹が、土管の影に居る早乙女たちに向かってにじり寄って来る。
「きさまらぁあああぁ!!!!」
 早乙女は立ち上がると、怒りにまかせ積まれている土管を一本持ち上げ始めた。
 直径1メートル30センチ、長さ5メートル程のコンクリート製の土管である!
「うおぉぉおおおお!!!」
 両腕の筋肉から血管が浮き上がる。
 早乙女は抱えるように、その大きな土管を持ち上げた!
「喰らいやがれェ!!」
 早乙女は土管を野球のバットでも振り回すかのように、横に薙ぐ!
 二匹の恐竜人間は逃げる間も無く、一気に薙ぎ払われた!!
「ギャァア!!」
 倒れた二匹に向かい早乙女は土管を投げ付ける。
 グチャッ!!
 一匹の胴体を土管が押し潰した!
 が、歯欠けの一匹には素早く跳躍されよけられてしまう。
「早乙女ぇ! ダメだよコイツら、キリ無いよ!!」
 リッキーが掛け寄って来た。
 リッキーが相対していた一匹の顔は陥没し、片腕は取れ、残る腕の関節はあらぬ方を向いているというのに、それでもリッキーを追い掛けて来ている。
 リッキーの全身には細かい裂傷や打撲傷が出来ていて、その格闘の壮絶さを物語っていた。
 早乙女も呼吸は荒く、肩で息をしている。
 不死身とも思える化け物達を相手に、このままではジリ貧である。
 土管に潰された一匹の身体が動いた。
 土管の下敷きになって動かぬ下半身を自ら引き千切り、上半身だけで抜け出そうとしているのだ。
「うっ……」
 その異様さに、吐き気が咽まで上がって来る。
 あんなになってもまだ生きてるというのか?
 こんな奴等相手に、これ以上どうやって戦えばいいと言うのだ!!
 考える間も与えぬように、早乙女に攻撃の焦点を合わせた二匹が一気に跳び掛かった!
「リッキー! そいつを貸せ!!」
 早乙女の言葉にリッキーが二本のトンファーを投げた。
 早乙女はトンファーを受け取ると、トンファーを銃のように握り、柄の底部にあるスイッチ——セーフティスイッチを外した!
 早乙女はまるで二挺拳銃で狙いを定めるかの如く両手を広げて、二本の鉄製のトンファーの先端を迫って来る二匹に向ける。
 化け物達までの距離、約3メートル!
 セーフティを外した事で飛び出した、トリガーを引く!!
 ドワッ!!
 発射音と共に鬼のような反動が早乙女の腕を襲う。
 肩が抜ける程の衝撃。
 トンファーから飛び出したのは小型のロケット弾!
 化け物達に着弾し、炸薬が、破裂する!!
「グギャァアアアアアアァアアァ!!!!」
 ドンッ!!
 爆音と共に、二匹の恐竜人間の身体は四散していた。
 早乙女は燃え燻りながら落ちてくる肉片の中を、土管から抜け出ようとしている最後の一匹に向かい歩き出す。
 何とか身体を引き千切れた最後の一匹は、這いずりながら、早乙女の気配に振り仰いだ。
 早乙女はそんな恐竜人間を見つめ、無表情のまま思い切りトンファーを顔面に突き刺した。
 頭部を串刺しにされた異形の者は、今度こそ、動く事は無かった。

「こんな仕掛けがあったんだ、コレ」
 リッキーが唖然としながら、早乙女から返してもらったトンファーを眺めている。
「気付かなかったのか? 
 さっきも敷島教授の研究室で、ソレ暴発させてたじゃないか」
 早乙女は呆れた。
「いや、ほら、あそこにある物ってさ、アタシが触るとみんな爆発しちゃうからさ。
 コレが特別そうとは……」
 リッキーはバツが悪そうに頭を掻いた。
「ソレ、バズーカトンファーって言うんだよ」
 早乙女はバズーカの反動で痛めた肩を、確認するようにくるくると回した。
「この前、作った時に自慢されたんだ。
 あの人もとんでも無いモノを作るよな、まったく。
 なんだよあの反動。
 フツーの人間じゃ、絶対肩を持ってかれるって。撃てないよ、ソレ。
 もっと考えて作ってくれってんだ」
 つまる所、そんな物を撃てる早乙女は普通では無いのだ。
 幸い、肩は何とも無いようである。
「だからさ、リッキーの使い方見ててドキドキもんだったよ。
 いつ中のロケット弾が暴発するんじゃないかって、もうヒヤヒヤ」
 リッキーは、中にロケット弾が仕込まれているトンファーで相手を直接殴り付けていたのだ。
 振動でいつ暴発するか解ったものでは無い。
 というより、打撃武具であるトンファーと、ロケット弾を充填しているバズ−カをひとつにまとめようとする方が間違っている。
「まぁ。リッキーなら暴発慣れしてるから、心配はしなかったけどね」
 リッキーを茶化す早乙女の表情に、ようやく笑みが戻った。
 安堵の空気が二人に流れる。
「和子、大丈夫なの?」
「気を失ってるだけみたいだけど、とにかく医者に見せないとね。
 それとオレ達、早くココから立ち去った方がいいかも」
 この騒ぎを聞きつけ、近所の住民が騒ぎ出している声がした。
 そりゃ、ロケット弾が爆発してるのだ。
 普通、騒ぎになる。
 倒れている和子をリッキーが抱き上げようとした時、ガラスが割れる音がした。
 竜崎の部屋の方だ!
「何だ?」
 早乙女が音の方に向かうと、二階にある竜崎の部屋からいくつもの人影が飛び出して来た!!

 To be continued.

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ゲッターロボ-The beginning- 010(第2章)2008年05月26日 06時56分08秒

***
 夕焼けが街を包み、はしゃぎながら家路へと向かう子供達の影を長く伸ばしている。
 民家と民家の間にはまだ草むらが生い茂る原っぱの多いこの時代、子供達にとっては帰り道だって遊び場なのだ。
 友達とのかくれんぼに気を取られていたのか、隠れている友達を探すのに夢中な鬼役の子供が、立ち止まっていた人影にぶつかって尻餅を着いた。
「いてて……ごめんなさい」
 子供は立ち上がり、ペコリと会釈をすると再び友達と駆け出して行った。
 その時、子供は気付かなかったのだ。 
 その、時期の早いトレンチコートを着込んだ男の顔を見上げずに頭を下げていたから。
 目深に被ったソフトハットに隠れたその緑色の顔を、見る事が無かったから。

 早乙女たち三人は、大学院の近くにある仕出し屋で山程買い込んだおにぎりや惣菜の包みを抱え、竜崎の下宿へと向かっていた。
「リッキー。歩きながら食べるの、はしたないわよ」
 中身がぎっしりと詰まった茶色い紙袋を両手で抱え込んで歩くリッキーに、和子は呆れ気味である。
「だってあそこのおにぎり、すっごく美味しいんだよ。
 この塩加減が絶妙〜♪」
 リッキーは竜崎の下宿に着くまで我慢が出来ないのか、胸に抱え込んだ紙袋を落とさぬように器用におにぎりを食べながら歩いている。
「んもう、リッキーったら。
 でも、それ本当に一人で食べるつもりなの?」
 ぶっちゃけ、リッキーが抱え込んでいる大きな紙袋の中身は全てリッキーのみが食べる分である。
 和子と早乙女と美奈子用に買った分は、早乙女の抱える袋の中。
 つまりは三人前を越える量をリッキーは一人で食べるつもりなのだ。
 毎度の事とは言え、和子はリッキーのその食欲に驚嘆するばかりである。
「うん。今日ちょっと運動しちゃったからね。
 お腹減っちゃって減っちゃって」
「あら? 今日ってずっと私と一緒だったじゃない。
 私が美奈子さんを送ってた間に、何かしたの?」
 ——やばいっ!
 二人のやりとりを聞いていた早乙女の顔が青くなった。
 和子にはチンピラヤクザに頼まれて竜崎を探しに行った事を、まだ話していないのだ。
 竜崎の事はまだしも、チンピラに関わった事を知られたらどんな雷が落ちるか解らない。
「な、なぁリッキー。お前ソレ、持って来ちまったのか?」
 早乙女は慌てて会話を逸らそうと紙袋で塞がっている両手の代わりに顎を動かし、リッキーの腰にぶら下がっている二本の鉄製のトンファーを指した。
 トンファーとは琉球武術等で用いられる武具の一種で、約45センチメートル程の長さの棒の片端近くに握りとなる短い柄が垂直に付けられた形状の物である。
 棒が腕に沿うように柄を握ると防御に適し、握ったまま柄を中心に180度回転させ、棒が相手の方に向くように握り直すとリーチが棒の分だけ伸びるため、攻撃に適す事になる。
 また、棒と握りは完全なL字型では無く、棒が腕に沿うように握った場合でも拳の位置より先に棒が少し突き出すため、その状態でもトンファーの打撃を加える事が出来る。
 そのため、むしろ裏拳や肘系の格闘術の延長として用いられる事も多く、持ち方を変えるだけで一瞬に変わるその二種類のリーチは実戦での間合いの駆け引きにおいて極めて有益であり、使いこなせればとても便利な武具と言える。
 本来のトンファーは木製なのだが、リッキーの腰にぶら下がっているそれは敷島教授の特製であり、鉄製でそのサイズも太さも通常のトンファーより二回りは大きい物となっていた。
「うん。だってコレ、面白そうなんだもん」
 リッキーは食べていたおにぎりの残りをポイと口の中に放り込むと、とぼけた顔をして指を親指から順に舐めている。
 や、別にとぼけているわけでは無い。それがリッキーの素なのだ。
「よく敷島教授が貸してくれたな?」
「えへへ。黙って持って来ちゃった」
 リッキーはペロリと舌を出した。
「後で怒られるぞ?」
 眉をひそめながら早乙女が言うと、悪びれもせずにリッキーは袋から新しいおにぎりを取り出し、バクついた。
「大丈夫大丈夫。アタシ、敷島センセとは仲いいから。
 これまでだって何も言われ無かったし。
 むしろ『使うんならデータをちゃんと持って帰って来い』って言われてるくらいだもん」
 つまりは敷島教授の珍発明の体の好いモニター役という訳である。
「だって竜崎があんなになっちゃってたワケだしさ、こういうの使う事もあるんじゃないかって気がするのよね〜
 アタシのカン、当るんだから」
 それは、確かにそうかも知れない……
 早乙女がうなずこうとした時、和子が口を挟んだ。
「え? リッキー、竜崎君を見付けたの?」
 しまった! と早乙女が思った時は既に遅かった。
「あれ? 早乙女から聞いてない?
 昼間のチンピラに案内されて、竜崎に会いに行ったんだよアタシ達」
 早乙女が和子に秘密にしようと思った事は、こうして全てがリッキーからバレてしまうのである。
 悪気が無い分、始末に負えない。
「あ? もしかしてチンピラと関わった事がバレるといけないから、内緒にしていたとか?
 そうなの早乙女?」
 思った事は全て口に出してしまうのがリッキーだ。
 そこまで言われてしまっては早乙女だって身も蓋も無い。
 それもあるけど、それだけでは無いのだ。
 竜崎の変貌した姿を和子に、いや田宮美奈子にどう伝えればいいのか早乙女は今でも悩んでいるのだから。
「早乙女くんのバカっ!!」
 和子の言葉に早乙女は首をすくめた。
 が、その「バカっ!」はいつもの雷では無かった。
「何でそれを早く言わないのよ!
 竜崎君を見付けたなら、早く美奈子さんに教えてあげなきゃ」
 和子は駆け出していた。
 まだ会ったばかりの美奈子の事をそこまで心配してあげられる。和子はそういう女性なのだ。
 三人は竜崎の下宿の手前まで来ていた。
「和子さん、ちょっと待ってよ」
 荷物の多い早乙女とリッキーが和子の後から付いて来る。
 和子が一足先に通りの角を曲がると、竜崎の下宿が目に入る。
「だって美奈子さん、心配してるのよ!」
 後方に離れた早乙女の言葉に答えるため余所見をした拍子に、トレンチコートの男にぶつかってしまった。
「きゃっ。
 やだ、すみませんでした」
 頭を下げ通り過ぎようとした時、同じトレンチコートを着たもう一人の男に道を塞がれてしまう。
 男は二人共、ソフトハットを目深に被っている。
「あの……通してもらえませんか?」 
 和子の行く手を阻むように不自然に立ち塞がる二人の男に、和子は違和感を感じた。
「すみません、急いでいるんですけど……」
「……ここハ、通セない」
 男の声は無機質で聞き取り辛かった。
「え?」
 和子が聞き返すと、男はノイズ混じりの無機質な声で言った。
「ギ……あのガキみたくナりたく無かっタら、引き返す事ダ」
 和子は男が指差す草むらを見る。
 夕陽で出来た木の影に隠れて見え辛かったが、そこには同じようにトレンチコートを着た男が生い茂る草むらの中に居るのが解った。
「ひっ!」
 その男が何をしているのか理解した時、和子の全身が硬直した。
 草むらの中に居るその男は、子供の内蔵を、腹を裂いて喰らっているのだ!!
 腹を裂かれた子供の胴体に首は無く、傍らに血まみれの生首が転がっていた!
「もっトも、見られタからには帰す気は無いがナ」
 和子は引きつった表情のまま話し掛ける男の顔を見上げる。
 ソフトハットの下に隠れていたその顔は、口が耳まで裂け、細かい牙が生え揃い、角質化した鱗のような緑色の皮膚で覆われていた。
 それは内蔵を喰らう男の顔と同じで、人間の物では無かった!!
「きゃぁあああああぁぁぁ!!!!」
 あまりの恐怖に和子は叫び声を上げた!
 ………………化け物!!
 和子の前に立つトレンチコートの二人の男は、人間とは掛け離れた異形の顔を持つ者であった。

To be continued.

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ゲッターロボ-The beginning- 009(第2章)2008年05月19日 23時04分06秒

「ほう。ふむ。ほほう。おーおーおー、なるほどのう」
 目にも止まらぬ早さで敷島教授はレポート用紙をめくっていた。
 端から見れば、ちゃんと読んでいるのかと思えるの程の早さであるが、これで本当に全文を理解してしまっているのだと言うから驚きである。
「うむ。さすが早乙女君じゃ。ワシの目に狂いは無かったのう」
 わずか数分で読み終えた百枚近くもあるレポートの束を机の上にバサッと投げると、他人を見抜く自分の眼力に自画自賛したのか、満足そうに自分の顎を撫でた。
「<ゲッター線>の特性を利用して超高温で加圧処理をすれば、ゲッター素子を内包した合成鋼が精製出来るというのは誠に興味深い見解じゃ。
 ……じゃがな」
 敷島は、火傷でただれたために瞼が引きつり、大きく見開いてしまっている右目を、ギヌリと早乙女に向ける。
「γ軸の数値が低過ぎやせんかね。
 コレじゃ融合する前に自壊しかねんぞ。
 早乙女君はそーゆートコが丼勘定でいかんのう。
 科学者たるもの数字で他人を説得させにゃ、誰も認めてはくれんよ。ん?」
「すみません。
 でも今回のレポートは、具体的な数値よりも着想の方を優先的にまとめた物ですから……」
「言い訳はいかんのう、早乙女君」
 敷島はピシャリと早乙女に釘を刺す。
 そうは言っても、<ゲッター線>は未知のエネルギーなのだ。
 たかがひと月やそこらで解明出来ると思う方が無茶である。早乙女にしてみれば無理難題を押し付けられているのに等しかった。
 やっつけなレポートになるのも当然である。
 とはいえ、ざっと目を通しただけで早乙女のレポートの穴を指摘してしまう敷島の才能は尊敬に値するものであり、さらには早乙女に内緒で“あんなもの”をたった1ヶ月で形にしてしまわれては、早乙女にはぐうの音も出ないのである。
 異能故の異端なのか。異端であるからこその異能なのか。
 敷島教授の才能は、天才と言うべき域にある事は間違いが無い。
「いえ、現実的にγ軸の理想数値を再現出来る施設が現在何処にも存在しませんから、実現可能な最大数値という意味でその数字を……」
「ふん、そんなモンはワシらが心配する事じゃないわい。
 何なら施設の2つ3つでもメルトダウンさせてやれば、政府だってちゃんとした実験施設を作ってくれるってモンじゃ」
 かかかと笑う敷島に、『数字で説得しろよ』と早乙女は心の中でツッコミを入れた。
 敷島教授に常識は通用しない。
「それにしても早乙女君、この<ゲッター線>てのは良いのう」
 早乙女はその未知のエネルギーを<ゲッター線>と名付けていた。
 命名の由来は実験時に竜崎が叫んだあの言葉から来ている。
 それに間違いはない。
 <ゲッター>という言葉が、早乙女の脳裏に焼き付いていたのは確かな事実だ。
 が、いざその呼称に決めてみると、不思議な程にその響きが当然の物のように思えてしまうのである。
 それどころか、その未知のエネルギーの存在自体——そのイデア自体が持つ名称であるとすら感じてしまう程に、至極当たり前の物に思えた。
 竜崎は、いったい何故あの時『ゲッター』と叫んだのであろう?
 いや、むしろ「何故そう叫ぶ事が出来たのか?」というべきか。
 竜崎は<ゲッター線>の事を、何か知っていたのではないのだろうか?
 そんな風にすら、思えてしまう。
「エネルギー効率、内在する熱量の総和、解析不能領域、どれを取っても現存するエネルギー源とはケタが違う!
 人体にも影響が無さそうじゃしのう」
 早乙女は実験時に<ゲッター線>を浴びてから、何度もメディカルチェックを受けている。
 が、異常は皆無であった。
 その後に行ったラット実験でも、現時点で異常は見られない。
 本来は竜崎も共に被験体としての検査を行うべきなのであるが、なにぶん行方不明であったために、データとしては早乙女の物だけが提出されている。
「それに、何と言っても宇宙から無限に降り注いでいるという所が素晴らしい!!
 この<ゲッター線>の解析が進み有効利用されれば、人類はエネルギー問題から解放されるやも知れん!
 エネルギー環境のパラダイムシフトが起こるぞ!
 まったく、何で今までこの<ゲッター線>が発見されなかったのか、不思議なくらいじゃ」
 その通りなのだ。
 実験によって<ゲッター線>を発見出来た事により付随的に判明したのだが、<ゲッター線>はG鉱の中にだけ存在する物では無く、実は宇宙から地表に降り注ぐ数々の宇宙線の中にもその存在を示したのである。
 ——物差しが無ければ測れない。
 <ゲッター線測定器>が存在しなければ、確かに認識する事すら出来なかった訳なのだが、それにしてもこれ程のエネルギー量を持つ宇宙線を、その存在すら推察出来ていないというのは何とも不思議な話である。
 運命論など片腹痛いが、今このタイミングで早乙女の手によって発見されたという事に、何かしらの意味があるのでは? と穿ってしまえる程に。
 そしてまた、その<ゲッター線>を古来から浴び続けても尚、普通に生命活動が出来ている人類には「<ゲッター線>は無害である」と言っても構わないと、推察も出来よう。
 知らずの内に、人類は<ゲッター線>と共に歩んでいたのである。
「じゃがな、早乙女君!
 そ〜んなコトはワシにとっちゃどーでもいいんじゃよ!!
 真に重要なのはただ一点!!
 この<ゲッター線>を使えば、とんでもない程強力な兵器が作れるというコトなんじゃぁ〜!!」
 敷島の独り語りを右から左に聞き流していた早乙女の眼前に、敷島の醜悪な顔がぬっとアップになった。
「わっ!!」
 鼻と鼻が触れ合う程に顔を近づけられた早乙女は、心臓が止まるかと思う程に驚き、後ずさりをする。
「お、驚かせないでください!!
 教授の顔、心臓に悪いんだから!!」
 チンピラヤクザの竜作を笑う事は出来ない。
 敷島の顔のアップに未だ慣れる事の出来ない早乙女の心臓は、早鐘のように鳴っていた。
 きっと、これからも慣れる事は無いだろう。
「てか、強力な兵器って……オレは別にそーゆーつもりで<ゲッター線>を……」
「いいか、早乙女君!! 
 強力な兵器と言ってもアレじゃ、原爆なんかとは違うんじゃよ?」
 敷島の目がキランと光った。
「アレはいかん。
 アレには兵器としてのロマンが無い。
 爆発の威力は認めるが、撒き散らす放射能がその後の被爆者を苦しめるなんてのは、兵器として風上にも置けん!
 兵器ってのは、人を綺麗さっぱり吹き飛ばすか、そうでなければズタズタに切り裂くか、ボコボコに穴を開けるか、グズグズに押し潰すかしてこそ、意味がある。
 その兵器自体の力によって人の命を奪う所にロマンがあるんじゃ!!
 副産物で長期に渡り人々を苦しめるなど愚の骨頂。
 スバーッと綺麗に殺戮してこそ真の……」
 元々、兵器に対するその偏執さを買われて、先の大戦では軍で兵器開発に従事していた敷島である。
 語り始めたら止まらない。
 早乙女は、敷島の「語りたいスイッチ」の地雷を踏んだ自分の迂闊さに溜め息を吐いた。
 こうなると敷島の演説は止まらない。
 肩を落としながら敷島の演説を右から左に聞き流していると、救いの手が差し伸べられた。
 和子が研究室の廊下から「ちょっと」と、手のひらで早乙女に来い来いと手招きをしていたのである。
 早乙女は演説を続ける敷島の目を盗み、そ〜っと廊下に逃げ出した。
「やはり美しい兵器の筆頭と言えば、何を置いてもガトリング砲じゃ!
 あれこそ破壊美の最たる物。
 絶え間無く発射される銃弾の雨! 手に伝わる小気味良い振動! 
 次々に破砕されて行く標的の様と言ったらそれはもう……」
 敷島には最早早乙女の事も眼中に無いようで、踊るような身振り手振りを交えながら、宙空を仰ぐように、独り悦に入りながら語り続けるのであった。

 早乙女とリッキーは竜作達チンピラと別れ、大学院に帰っていた。
 竜崎を見失った二人は、和子との約束もあり大学院に戻る事にしたのだ。
 早乙女は催促されていたレポートを仕上げると、敷島に提出するためリッキーと共に敷島の研究室に足を運んだ。
 そして今、敷島の演説が響く研究室の廊下で、早乙女は窓枠に寄り掛かり窓の外を眺めている。
「敷島教授って、何だか怖いわ……」
 研究室内で独り兵器の演説を続ける敷島を横目に、早乙女の前に立つ和子が呟いた。
 早乙女はその言葉に研究室の方に目を向ける。
 自分の世界に入り切って演説を続ける敷島の後ろでは、リッキーが物珍しそうに、研究室内に陳列されている物を、眺めてはいじくり回していた。
「まぁ、かなり偏った所がある人だからね。
 馴染めないのも無理は無いよ」
 早乙女はくすりと笑う。
「でもね、あの人の兵器工学の発想力と技術力ってホントに凄いんだぜ。
 その開発力をちょいと間借りしたもので、電化製品や車、飛行機、自動機械全般への転用されてる技術っていくらでもあるくらいなんだ。
 パテントだっていくつ持ってるのか解りゃしない」
 兵器開発への偏執さこそあれ、早乙女は敷島の才能を心から認めていた。
 偏見に左右されずに素直に他人を認める事が出来るからこそ、早乙女の回りに自然と人が集まるのであろう。
 早乙女とは、そういう男なのだ。
「見てくれも凄いけど、それに負けないくらい才能だって凄いんだぜ。
 天才ってのは、あーゆー人の事を言うんだよな。
 ま、確かに見てくれに似合った方向での才能ではあるけどさ」
 早乙女はケラケラと笑った。
「それ、褒めてるの?」
 和子が溜め息をつく。
「早乙女くん、変な人とばかり相性がいいんだから……先が思いやられちゃうわ」
「大丈夫。キミには苦労は掛けないよ♪」
 早乙女はおどけて見せた。
「早乙女くん、口ばっかなんだもん」
 和子が口を尖らせた時、研究室から小さな爆発音が聞こえた。
 二人が部屋を覗き込むと、リッキーが顔を爆発のススで真っ黒にさせ、二本の棒を持ってキョトンとしている。
 敷島の発明品をいじって、暴発でもさせてしまったようだ。
「リッキーも、懲りないなぁ」
 早乙女が呆れた。
 どうやら、毎度の事のようである。
 リッキーは「こりゃ! 勝手に触るなといつも言ってるじゃろ!」と敷島にスパナを投げ付けられた。

「……あ、いけない。そんな話じゃ無かった」
 二人が窓際に戻ると、美奈子が思い出したように言った。
「美奈子さん、竜崎君の部屋で一人で待ってみるって。
 大家さんから鍵を借りられたから、大丈夫だって、言ってたわ」
「そうか」
「美奈子さん……可哀想……」
「そうだな……」
 早乙女は和子に竜崎と会った事を切り出す事が出来なかった。
 結局チンピラヤクザと関わり合いを持ってしまった事を、言い出す事になるのが気が引けた訳では無い。
(いや、ちょっとはあるのかも知れない)
 あの竜崎の変わり果てた姿を、和子に何と言っていいのか解らなかったのだ。
「後で、竜崎の部屋にみんなで行ってみようか。
 美奈子さんの様子を見にさ。
 ぼちぼち陽も暮れるし、惣菜でも持って行ってみんなでメシでも食えば、少しは美奈子さんも気が紛れるんじゃないかな?」
 早乙女は無理に笑顔を作った。
「そうね。そうしましょうか」
 和子の顔も明るくなる。 
「それに、もしかしたら……」
 早乙女は聞こえないような小さな声でつぶやいた。
「ん? 何か言った?」
「……いや、何でもない」
 もしかしたら、竜崎も部屋に帰っているかも知れない……
 早乙女は、美奈子の名を口にしたあの時の竜崎の涙を、信じたかった。


To be continued.

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ゲッターロボ-The beginning-目次&登場人物紹介&用語解説2008年03月26日 13時52分14秒

ゲッターロボ-The beginning-

目次

●のーがき(前書き)
http://hiroz.asablo.jp/blog/2007/10/26/1871974

●本編
・Prologue
<001>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2007/10/26/1871976

・第1章 早乙女と竜崎と
<002>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2007/10/28/1875087

<003>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2007/10/29/1877003

<004>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/22/2806168

<005>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/23/2818624

<006>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/23/2820872

・第2章 異形の者
<007>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/26/2844774

<008>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/26/2844859

<009>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/05/19/3527236

<010>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/05/26/3543193

<011>
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/05/26/3543202


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ゲッターロボ-The beginning-

登場人物紹介

●早乙女
本編の主人公。大学院生。(「早乙女博士」の若い頃)
ズングリムックリとした体型だが、スポーツ万能、頭脳明晰。
人は良いが、短気で乱暴なのが欠点。
後に「ゲッター線」と呼ばれる、無公害でクリーンな、宇宙から降り注ぐ無限のエネルギーを彼が発見する所から、この物語が始まる。
それが人類の進化を司っていたとは、当然この時点では知る由も無い。
ヤクザ一家を壊滅させた過去を持つ。
諸事情により、二本下駄を愛用している。
公式設定には名字しか無いため、下の名は不明。
(まさか「博士(ひろし)」じゃあるまいな?)

●竜崎達也
大学院生。早乙女とは大学時代からの親友。
背が高く、痩身。
早乙女に頼まれ、未知のエネルギー(後の「ゲッター線」)の抽出実験を手伝うが、事故により早乙女と共にその光を浴びてしまう。
その後行方不明になり、早乙女たちと再会した時には、見違えるような姿に変わり果てていた。
はたして、彼に秘められた謎とは?

●和子
大学生。早乙女の彼女。(後の「早乙女和子」。即ち早乙女夫人)
思慮深く、おとなしくて優しい性格なのだが、怒るとちょっと怖い。
騒動事に首を突っ込みたがる早乙女に、いつも心を痛めている。
早乙女にはもったいないくらいの美人。
公式設定には旧姓が無いので名字は不明。

●無双 力(むそう りつき)
大学生。和子の友人。
女性ながら、プロレスラーのように大柄な体躯と筋力を持つ。信じられない程の怪力無双。
明るい性格で、誰からにも慕われる。
和子を通して知り合った早乙女とは最早腐れ縁。
騒動事が三度のメシと同じくらいに好き。
ところで読み仮名の「りつき」は「りっき」の方が正しいような気がするが、どうだろうか?
昔のルビは、促音を全角文字に打ち替えちゃうからなぁ。(今でもそうだったりするけど)

●田宮美奈子
竜崎達也の幼なじみで、彼女。
田舎で竜崎と文通をして連絡を取っていたが、音信不通になり心配で早乙女を訪ねて来る。
長い真っ直ぐな黒髪が綺麗な大和撫子。
しかし、どこか幸薄そうに見えてしまうのは、気のせいなのだろうか?

●敷島教授
早乙女が通う大学院の教授。(「敷島博士」のそれなりに若い頃)
先の世界大戦では軍で兵器開発をしていたが、終戦と同時にお払い箱になり、大学院で教鞭を取るようになる。
顔の半分は実験中の事故で負った火傷の後があり、見る者に異様な雰囲気を振り撒いている。
彼の研究は少し異常で、学院内でも一番偏屈だと言われている

●チンピラその1:イボマラの竜作
<青空組>のチンピラヤクザ。
早乙女に二の字の下駄の跡を付けられる。
緊張すると舌を咬む癖がある。

●チンピラその2:七曲がり千吉
<青空組>のチンピラヤクザ。竜作の子分。
文中では「ヤセ」と表現される事が多い。
文中では描かれていないが、いつも着流しを身にまとい、仕込み刀を持ち歩いている。

●チンピラその3:子宮突きの水膜
<青空組>のチンピラヤクザ。竜作の子分。
文中では「デブ」と表現される事が多い。
文中では描かれる事は無いと思うが、丸いサングラスを掛けている。

●中畑:(中畑建吉)
<青空組>の中堅ヤクザ。
竜崎を使い、青空組の下克上を画策する。
その他、裏設定を考えるといくらでも出来てしまい、とても楽しそうなキャラなのだが、
多分、第1章<006>の、あの1シーンにしか出て来ない。

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ゲッターロボ-The beginning-

用語解説(設定はこの小説独自の解釈になります)

●「ゲッター線」
早乙女博士が発見した、宇宙から降り注ぐ未知の無限エネルギーである特殊な宇宙線。
TVアニメ版では『無公害でクリーンなエネルギー』(だったよね? あとでちゃんと調べますね)と言われ、
石川賢漫画版では『人類をサルからヒトへと進化させたエネルギー』と言われてる。
(TVアニメ版では、作中とりわけ進化に関しては触れられていない)
また、漫画版ではゲッター線を扱う上で防護服を着るシーンも見受けられるため(『真ゲッターロボ』辺り)、完全に無公害とは言い難いのかも知れない。
まぁ、酸素だって取りすぎると人体には有害だったりするので、そんな感じかも。(強引?)
この小説では、
「宇宙から降り注ぐ、無公害でクリーンな無限エネルギーである特殊な宇宙線。
人類の進化を司っているらしい」としている。
(場合によっては「宇宙線」という従来の定義には当てはまらないものかも?)
また、「ゲッター線」自体には意志があるようにも見受けられる。

●「ゲッターロボ」
早乙女博士が開発した、宇宙開発用万能ロボット(TVアニメ版)。
と、同時に対恐竜帝国用戦闘マシーン(にしか見えないのが石川漫画版)。
ゲッター線をエネルギーとする三体の飛行マシーンが変形合体し、完成する巨大ロボット。
その並び順の組み合わせで、
空中用の「ゲッター1」
地中用の「ゲッター2」
海中用の「ゲッター3」
のバリエーションがある。
が、この小説はまだゲッター線を発見する頃のお話であるため、残念ながら出ません。
(てか、この時代設定で出すの無理でしょ、さすがに。その代わり……(笑))

ゲッター1の顔は亀甲模様からヒントを得たデザインになっていて
六角形や八角形の多角形のパネルの配置で人の顔を形どっている。
なのでこの小説の「ゲッター線」の意志らしき物のビジュアル表現は、
ゲッター1の顔をイメージしたものになっている。

●「恐竜帝国」
人類よりも先に地上に栄えた先史文明の、先住民族である「ハチュウ人類」達が築き上げた一大帝国。
しかし突然宇宙から降り注いだ「ゲッター線」に身体が適応出来ず、滅亡する。
(人類はその「ゲッター線」を浴び、「ハチュウ人類」に取って変わるように、サルからヒトへと進化した)
科学力は現在の人類よりも進んでいたため、
生き残った者達は巨大生活シェルター(マシンランドウ)を作り、
地下のマグマ層へと避難して、悠久の時を過ごす。
地上への帰還と復権を夢見ながら。

●「ハチュウ人類」
恐竜達が人類のように進化をしていたらならば、こうであったであろう。というような姿を持つ。
文字通り<人型をしたハ虫類>。基本的に二足歩行をする。

早乙女博士が「恐竜帝国」や「ハチュウ人類」の正式な名称(正体)を初めて知るのは
石川漫画版の「ゲッターロボ」のストーリー序盤になるために、
この小説の文中で明確な説明が出来ないのが、少々歯痒い。

ゲッターロボ-The beginning- 008(第2章)2008年03月26日 08時39分46秒

***

 男は、己の不安から逃れたい一心で、泣きながら女の名を呼び続ける。
 女は、例えそのひとときでも自分が男の安らぎになれればと、男の行為に身を任せる。
 ——そんな切なくも悲しい情事。
 
 二人は乱れた衣服を整えると、部屋の壁にもたれ寄り添っていた。
「……すまなかった」
 天井を見上げ竜崎がつぶやく。
「いえ、いいんです……」
 仄かな羞恥を隠すように、美奈子が襟元を正す。
「うっ……」
 何処かを怪我しているのか、痛みに竜崎が顔をしかめる。
 引きつるように筋肉から浮き出た血管が、何とも痛々しい。
「大丈夫ですか?」
 心配する美奈子を気を使うように、竜崎は言葉を続けた。
「ああ、何でも無い……
 よくこの部屋が解ったな。迷わなかったか?」
「和子さんに案内していただきましたから」
「和子さんに?」
「ええ。始め、大学院の方に伺ったんですよ。
 そうしたら和子さんにこちらを案内していただけて……
 早乙女さんやリッキーさんにも会いました。
 うふふ。皆さん楽しくて、良い人ですね」
 美奈子は昼間の早乙女たちの騒動を思い出し、笑ってしまう。
「そうか、早乙女とも会ったのか……」
「ええ、お手紙に書いてあった通りの方でした。
 達也さん、素敵なお友達が出来て良かったですね」
 美奈子は微笑みながら小首を傾げ、竜崎の顔を見る。
 が、竜崎の顔は沈んだままだ。
「ああ。あいつらは、俺にはもったい無いくらい、いいヤツらなんだ……」
 そう言うと、竜崎は黙り込んでしまった。
 しばしの沈黙。
「達也さん……よろしければ、あなたに何があったのか教えていただけないでしょうか?
 私でも力になれる事があるのなら、いくらでも——」
 思い切って、今までの疑問を直接ぶつけようとした美奈子の言葉に、竜崎が言葉を被せた。
「早乙女には、さっき俺も会ったよ……」
 竜崎は早乙女と会った状況には触れず、言葉を続ける。
「お前が訪ねて来てると言われたんで、戻って来たんだ……」
 天井を見上げていた竜崎の目が、美奈子に向いた。
 意を決したように、竜崎が美奈子に語り始める。
「信じられないかも知れないが、聞いてくれるか?」
 美奈子はコクリと、うなずいた。
「ひと月前のあの日、俺と早乙女は未知のエネルギーを発見するための実験をしていた。
 あれが全ての始まりだったんだ——」

 未知のエネルギーの光を浴びた竜崎は、その時からおかしくなってしまった自分を自覚していた。
 身体が軋み、夜は毎晩のようにうなされ、記憶が飛んでしまう事もあった。
 そして、記憶が戻った朝には、決まって自分の両手が誰の物とも解らない血で、真っ赤に染まっているのである。
 自分がいったい何をしているのか解らない恐怖。
 そんな恐怖にさいなまれながらも、その赤い血を見る度に、竜崎の中で言い知れぬ破壊衝動が生まれ始めていた。
 数日も経たない内に、夢遊病者のように竜崎は街を徘徊するようになった。
 そして、己が内に生まれた破壊衝動に身を任せるように、人とは言わず物とは言わず、身の回りにあるその全てを、壊し始めた。
 ヤクザ者に声を掛けられその事務所に居着くようになる頃には、身体の軋みは激痛へと変わって行き、その痛みが全身を駆け抜ける度に、自分の身体が大きく、強く膨れて行くのを自覚し、竜崎は驚愕する。
 そして、自分の身体が大きくなればなる程に、意識は混濁し、破壊衝動は増して行くのだ。
 竜崎は自分を抑制出来なくなっていた。
 しかし同時に、わずかに残った自意識では、自分の中にある別の自分の存在を感じ始めてもいた。
 それは、一般に言う所の心の闇などという別人格を指すような心理的な代物では無く、確実に、物理的な違い持つ何かであった。
 何故かは解らないが、竜崎にはそう確信出来たのだ。
 が、時を置かずに混濁してしまう意識の中では、それが何であるのかを突き止める術も無く、竜崎は内なる破壊衝動が命じるままに、全ての物を壊し続けてしまっていたのである。

「だから、俺の傍には居ない方がいい……
 いつお前を傷つけてしまうかも解らないんだ
 俺は、もう俺では無くなってしまっているのかも知れない……」
 竜崎は悲しそうな目で、美奈子を見た。
「達也さん……」
 美奈子は何と言葉を返していいか解らなかった。
 想像にも及ばぬ事が、竜崎の身に起きていたのだ。
 疑う訳では無いが、それが本当だとして、自分にいったい何が出来るというのだろう。
 何ひとつとして、してあげられる事が無い。
 悲しそうに見つめる竜崎の瞳に、返してあげられる言葉が見つからない。
 力になれれば——などと軽々しく口にした自分を美奈子は心から恥じた。
 本当に、私には何もしてあげられないのだろうか?
 その時、ふと、美奈子の頭に早乙女の顔が浮かんだ。
 ……そうだ。あの人なら相談に乗ってもらえるかも知れない。
 同じ学者の卵である早乙女なら、竜崎の悩みに答えてもらえるのではないか?
 美奈子の心に一筋の光明が見えた気がした。
 竜崎にそれを伝えようと、口を開いた。——その時!
「ギギギ……そりゃぁ、そうダろう。
 ダってお前ハ、人間なんカじゃ無いんダからなあ!!」
 バキバキバキッ!!
 木材の砕ける破壊音と共に、天井を突き破り、数人の影が突如として竜崎と美奈子の前に落ちて来た!!
「うわぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
 突然目の前に現れた人影に驚き、悲鳴を上げる竜崎と美奈子。
 しかしそれは、見知らぬ人影が天井から落ちて来たからなのでは無い。
 その人影の姿を見たからだった!
「な、何だキサマら!!」
 竜崎が叫び声を上げる。
 そいつらの姿は、まるで異形の物だったのだ!!
 人影とは言ったものの、その姿は人では無かった。
 シルエットこそ人に似ているが、その尾てい部からは長い尻尾が垂れ下がり、背中には蝙蝠のような羽が生えている。
 緑色をした皮膚は厚く硬く、人間の物とは到底思えない。
 そしてその顔はヘビのようにもワニのようにも見え、細く長い舌を、人間が舌なめずりをするかのように、チョロチョロと出しては引っ込めているのである!
「は、ハ虫類……!?」
 美奈子は驚きのあまり、無意識にそう口走った。
 そう。それら異形の姿は、あたかもハ虫類である恐竜が、人間のように進化した姿を模しているかの如く見て取れたのだ!!
「ギギ……オレ達ハ随分とラッキーだナ」
「ギ…まったくダ、宇宙(そら)から落ちて来たゲッター鉱石の追跡を命令されてキてみれば、ギギ……とんだ掘り出し物を見付けたゼ」
「技術庁のヤツラ、大慌てダろうぜ、ギギ……
 失態の証拠が、こんなトコに居やがった」
「ああ、ヤツラは偉そうにオレ達を顎で使いやがルからな。ギギ、いい気味だゼ」
 異形の者達は、竜崎の問いにも答えず、思い思いに勝手に喋り出した。
 発せられるその声は、人間の声帯とは構造が違うように思える程、ノイズ混じりで聞き取り辛い。
 あまりの常軌を逸した出来事に、竜崎も美奈子も、足がすくんで動けなくなる。
 そんな二人を舐るように見回すと、異形の者の一体が竜崎に近寄り、その細く尖った爪先で竜崎の頬を縦に撫でた。
 ガチガチと振るえる竜崎の頬に線が入り、うっすらと血が滲み出す。
「ギギ……生体トレーサーが壊れて今までは逃げおうセて居られたかも知れないが、残念ダったな。
 実験体D・123Z649号!
 お前の自由は、これデお終いダ」
 キキキと耳障りな音を立て、笑う異形の者達。
 しかし竜崎には、異形の者達がいったい何を言っているのか解らなかった。

To be continued.

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ゲッターロボ-The beginning- 007(第2章)2008年03月26日 08時25分19秒

---第2章 異形の者---

 田宮美奈子は竜崎達也の下宿する古びた木造アパートの二階の部屋で、竜崎の帰りを一人待っていた。
 窓の外は夕焼けの色に染まり始めている。
 竜崎の部屋には美奈子には到底理解出来ないような、難しい学術書が所狭しと置かれ、本棚から溢れ出した本の山が畳の上に何段も平積みされていた。
 その雑然さを除けば、研究一筋である竜崎の性格をそのまま表したような、まるで今日の若者らしさの感じられない何ともシンプルな部屋である。
 美奈子は、昔と変わらないそんな竜崎を感じられたから、この部屋を好きになれた。
 何より彼の勉強机の上に、散乱するノートや筆記用具に埋もれながら、写真立てが顔を覗かせているのに気付いた時は、嬉しくて涙が出そうになった。
 飾られていた写真に写っているのは、二人の姿。
 椅子に座る美奈子の傍らに立つ学生服姿の竜崎の写真。
 それは、竜崎が田舎を出る際に二人で写真館に寄り、撮影してもらった物だ。
 その写真の中の竜崎は、優しく美奈子の傍で微笑んでいる。
 だから、美奈子はただ待ち続ける事になっても辛くはなかった。
 その畳の部屋で、美奈子は正座をしながら、竜崎の帰りを待っている。
 ここまで案内をしてもらった和子は先に帰した。
 大家に鍵を貸してもらえ竜崎の部屋に入れた事で、美奈子は一人で待てると思えたからだ。
 変わらぬ竜崎の姿が感じられるこの部屋の匂いに触れられたから。
 美奈子は竜崎を信じる事が出来た。
「皆さん、いい人達ですね」
 見知らぬ他人である美奈子を心配して、優しく接してくれる早乙女や和子。
 都会は怖い所だと思っていた美奈子にとって、あのような人達に囲まれている竜崎はきっと幸せな日々を送れているのだと、安心する。——だから、
「私は、いつまででも達也さんを待ちますよ」
 机の上の写真に、そう語り掛けるのである。

 待ち続けると決めたとはいえ、女一人で初めて田舎を遠く離れた疲れもあったのだろう。
 美奈子はいつしかうたた寝をしてしまっていた。
 夕焼けの赤色が深まり始めた時、部屋の戸が乱暴な音を立てて突然開いた。
「……美奈子……か……?」
 その声に美奈子が驚き振り向くと、大男が部屋に倒れ込んだ。
「達也さん!」
 美奈子の目に飛び込んだ竜崎の姿は、まるで別人のようだった。
 美奈子の知る竜崎の姿より体格が二回りは大きく、身体中が厚い筋肉で覆われている。
 美奈子は慌てて竜崎の傍に駆け寄った。
 倒れ込んだ竜崎の衣服はボロボロで、その顔は土気色をしている。
 破れた衣服から覗く筋肉からは血管が浮き出ていて、小刻みに脈動していた。
 美奈子は、その場で気を失ってしまった達也を懸命に部屋の中に運び、布団に寝かし付ける。
 細腕の美奈子には、かなりの重労働である。
 うなされる竜崎の顔を見て、美奈子は心配になった。
 ——この人に、いったい何があったのだろう——
 大柄でこそあったが、田舎に居た時の細身の竜崎しか美奈子は知らない。
 美奈子は湿らせた自分のハンカチで竜崎の額に浮き出る汗を拭いながら、自分の知らない竜崎がそこに居る事を、少し悲しく思えた。
「いけない、お医者さんを呼ばないと……」
 気が動転して、そんな事にも気付かない自分を恥ながら美奈子が立ち上がろうとした時、竜崎の意識が戻った。
「……美奈子」
「達也さん! 気が付いたのね?
 待っててください、今、お医者さんを呼んで来ますから!」
 大家に電話を借りようと立ち上がる美奈子の手を掴み、竜崎が引き止める。
「……医者はいい……医者はいいんだ」
「でも……」
 真剣で、それでいて悲しそうな彼の瞳を見て、美奈子は竜崎の枕元に座った。
「……美奈子……どうして来た……」
「だって、心配だったから」
「帰れ……」
 竜崎の言葉に、美奈子は目に涙を溜めた。
「そんな……突然連絡が無くなったから、心配して来たんですよ」
 竜崎は両肘を付き、上体を布団から起こした。
「そうか……迷惑を掛けてすまなかったな……
 でも、もう帰ってくれ」
「どうしてですか? 連絡もせずに、勝手に来た事は謝ります。
 でも連絡を取ろうにも、達也さん、何処に居るのかわからなかったから……
 それなのに会えた途端に帰れだなんて、私、どうしていいかわかりません……」
 二人の間に沈黙が流れる。
 涙を溜めた美奈子が訊ねた。
「私の事、嫌いになられたのですか?」
 一拍の間を置いて、竜崎が答える。 
「……そうだ」
 美奈子の目から涙が溢れた。
「嘘です! そんな見え透いた嘘、私にだってわかります!
 だって、二人で撮った写真をあんなに大切にしてくれているじゃありませんか!?」
「それは……」
「何で私の事をそんなに避けようとするんですか? 何かあったんですか?
 理由を教えて下さい!」
「俺と居ると、お前を不幸にしてしまう……」
 涙を流し訴える美奈子から目を逸らす竜崎。
「私は平気です。
 どんな苦労があっても、達也さんと一緒に居られるだけで幸せですから——」
 言葉を被せるように竜崎が声を上げる!
「そういう話じゃ無いんだ!!」
 竜崎のあまりの声の大きさに、びくりとする美奈子。
 しかし、気丈にも言葉を返し続ける。
「達也さんに何があったのかわかりません……でも、私の気持ちは変わらない昔のままです。
 ずっとずっと、あなたに付いて行きます。だから……」
「だまれ!!!」
 竜崎は思わず美奈子の頬を平手打ちしてしまった。
 美奈子の長い黒髪が揺れる。
 二人の間の時が止まった。

「達也さん、こんな事をする人じゃなかった……」
 美奈子がぶたれた頬を押さえ、涙を流す。
「そうだ。俺は変わっちまったんだ……だから、俺の事なんか忘れて、早く帰れ」
 平手を張った竜崎もまた、うつむいてしまう。
「嫌です、帰りません! せっかく達也さんと会えたのに……わたし、私……」
「俺はもう変わっちまったんだよ! 昔の俺じゃ無いんだ!! 帰れ!」
 竜崎はうつむきながらそう怒鳴ると、歯を食い縛りながら搾り出すように呟いた。
「そうさ……俺はもう変わっちまったんだ……」
 うつむいている竜崎の目から、何かが落ちた。
「達也さん……?」
 それに気付いた美奈子がそっと竜崎の肩に手を伸ばす。
 竜崎が顔を上げる。
 その頬には涙が流れていた。
「……美奈子ぉ……俺、変わっちまったのかなぁ……?」
 肩に伸びた美奈子の手を握り締め、顔をくしゃくしゃにして竜崎が問い掛ける。
「俺、おかしくなっちまったのかなぁ?
 ……美奈子ぉ……俺は、俺だよなぁ?」
 何かに苦悩しているかのような竜崎の問い掛けに、美奈子はようやく竜崎の本意を知った気がした。
 自分を巻き込みたく無いのだ。
 いったい彼の身に何が起きているのか、美奈子には想像もつかない。
 しかし美奈子にまで危険が及ぶような何かが、竜崎の身の上に起きている事だけは理解出来た。
 それでも美奈子は優しく答える。
「達也さん。あなたは昔のままの、私が知ってる達也さんですよ」
 どんな不安に取り憑かれているのだろう?
 この人がこんなにも取り乱す不安を、できることなら取り除いてあげたい。
 美奈子は涙を流し嗚咽する竜崎を包むように抱きしめる。
「俺は……俺でいいんだよな……?」
「そうですよ。あなたは、あなたですよ」
 その言葉に、竜崎は泣きながら子供のように美奈子にしがみつく。
「美奈子ぉ……!」
 美奈子は幼い子供をあやすように、竜崎の頭を優しく何度も撫でる。
 そして、竜崎の強い力で布団に押し倒された美奈子は、そっと目を閉じた。

To be continued.

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ゲッターロボ-The beginning- 006(第1章)2008年03月23日 21時19分13秒

***

 早乙女たちは、パチンコ屋に群がる人だかりを見て唖然とした。
 青空組の詰所で、竜崎が数人を引き連れ、天地会の息の掛かったパチンコ屋に出向いたと聞いてここに来たのだ。
「イボマラのぉ、随分遅かったじゃねぇか」
 青空組の幹部らしい男が、竜作を見付け、声を掛けた。
「中畑ぁ! てめぇの仕業か!」
 スカした顔をする中畑と呼ばれた男の胸倉を、激昂した竜作が掴む。
「く、く、組長は事を荒立てるなと言ってたハズりゃ!
 そ、ソレをきさまは泥をるるような真似をしやがりるれぇ!!」
 あまりにも激昂し過ぎたのか、怒りをぶつけるべき台詞を、ちょっと咬んだ。
 例の如く、竜作の口の中から血が滲み出す。
「組長は甘いんだよ。これからは金と力の時代だってことが解っちゃいないんだ。
 オレに任せればホラ、ご覧の通り。天地会なんざワケねーだろーが」
 中畑は掴まれた胸倉から竜作の手を払い除ける。
 ついでに顔に飛んだ血まみれの唾も拭いさる。
 中畑という男、竜作のその癖にはもう慣れ切っているのだろう。
 顔に唾を飛ばされたというのに、冷静なものである。
「お前もいいかげん、オレの方に着け。
 これからはオレ達二人で青空組を大きくして行こうじゃないか」
「てめー! どの口がそんらころを言ひひゃがる!!」
 キスでもしてしまうのではないかというくらいに顔と顔を突き付け、ヌーという唸り声を出しながらお互いを睨み合う二人。
 両手を後ろに伸ばして向き合うその二人の絵面は、子供のケンカにしか見えない。
 青空組ってのは、こんなヤツしか居ないのだろうか。
 二人に早乙女のゲンコツが飛んだ。
「てめーらの都合はどーでもいいんだよ! あの中に竜崎が居るんだな?
 リッキー! 行くぞ!」
 大きく膨れ上がったタンコブを押さえてしゃがみ込む二人を尻目に、言うが早いか、早乙女とリッキーは店内に飛び込んだ。
「竜崎! 居るのか!!」

 二人が飛び込んだ店内は、まるで爆撃にでも合ったかのような状態だった。
 パチンコ台は全てが壊れ、倒され、無傷の物はひとつとして無い。
 床には割れたガラスの破片や、砕けたパチンコ台の部品、蒔かれたように散乱してるパチンコ玉で覆われている。
 新装開店の店とは到底思えない程の、惨たんたる有り様だ。
 竜崎を襲った用心棒達は全員、そんな廃材と化した機具に混じり折り重なって倒れていた。
「竜崎!」
 視界を遮る物が無くなり見通しの良くなった店内の中央には、グラサンの男の首を掴み、片手で高々と持ち上げている大男の姿があった。
 竜崎である。
 竜崎は無表情のまま、早乙女を見た。
「……なんだ。早乙女か」
 早乙女は竜崎の姿を見て驚いた。
 細身であった竜崎の身体はプロレスラーかと思える程にパンプアップされ、背丈も10センチは大柄になっているのだ。
 しかし、獣のようにも見える精悍な体格とは裏腹に、その顔色は死人のように土気色で、覇気という物がまったく感じられない。
 たったひと月で、人はこんなにも変わってしまえるものなのだろうか?
 別人のような竜崎の変化に、早乙女には同一人物である事すら疑わしく思えた。
「お、おまえ……本当に竜崎か?」
 竜崎は無表情のまま答える。
「……ひどいなぁ、早乙女。俺に決まってるじゃないか」
 感情の欠落した、何とも無機質な声色。
 竜崎は、まるで軋んだ音を立てながら動く油の切れた機械のようにぎこちなく首を動かし、早乙女の方を向く。
 その目には、生気ある光りが宿ってはいなかった。
「す、すまん。何だか別人みたいだぞ? お前」
 竜崎の頬がピクリと動いた。
「なぁ、何があったんだ? 突然居なくなって、みんなお前の事心配してんだぞ。
 とりあえずそいつを降ろして、オレ達と一緒に帰ろうよ。な?」
 早乙女の言葉に、竜崎の頬がまたピクリと動く。
 早乙女は竜崎をなだめるように、喋りながら一歩ずつ近づいて行く。
「お前が居てくれないと困るんだよ、研究だってなかなか進まないしさ。
 ほら、こないだの実験。あれをさ、竜崎に検証してもらいたいんだよな。
 だからさ、一緒に帰ろうよ。みんな、待ってるからさ」
 早乙女は不要な刺激をしないよう言葉に気を付けながら、とにかくこの場から竜崎を連れ出そうとした。
 こんな騒然とした場所に居てはダメだ。
 説得出来るものも説得出来なくなる。
 何で竜崎がこんな事になってるのかは、その後に聞けばいい。
 しかし、友を思うそんな早乙女の気持ちが、当の竜崎に届く事は無かった。
 竜崎の肩が小刻みに震え出した。
「……お…れは……」
「竜崎?」
「……俺は……俺は…………俺だぁああああああ!!!」
 突然雄叫びを上げた竜崎は、掲げていたグラサンの男をまるで野球のボールか何かを投げるかのように、早乙女に向かって投げつけた。
 尋常では無い怪力!
 常軌を外れた行動に不意を突かれた早乙女には、飛んでくるグラサン男の身体を避ける事が出来ない!
 あわててリッキーが早乙女を押し退ける。
 腰を溜めてグラサン男の身体をキャッチした。
 リッキーの力もそれはそれで尋常では無い。
「アンタぁ! 何すんのよ!
 人間は投げていいモノじゃないのよ!!」
 文句を言うリッキーの目の前に、竜崎の身体が飛び込んでいた。
 5メートル程はあったハズの距離を、竜崎は一瞬の内に詰めていたのだ。
「うウぅぅおォ……
 俺に命令……するなぁぁぁあああああ!!!」
 叫ぶと同時に岩のようなその拳をリッキーの顔面に叩き付ける!
 グラサン男を抱えてしまっているリッキーは両手が使えず、そのまま顔面を殴られ吹き飛んでしまう。
「リッキー!!」
 自分を庇ったために倒されてしまったリッキーを見て、早乙女がキれた。
「竜崎ィ! てンめぇー! 自分が何やってンのか解ってンのか!?」
 竜崎を連れ戻しに来た事など、瞬間頭から飛んでしまった早乙女が竜崎に殴りかかる!
 が、鋼のような竜崎の腹筋はびくともしない。
「……俺に……触るなァァあああ!!」
 払い除けるように振り回す竜崎の腕が、早乙女を薙ぎ倒す。
 壊れたパチンコ台に叩き付けられる早乙女。
 背中をしたたかに打ち付けた。
 一瞬息が出来ない。
 早乙女は床に転がってた角材を拾い、立ち上がりざまに竜崎の頭を殴り付ける。
「竜崎ィ! てめー! いいかげんにしやがれ!!
 みんなてめーの事、心配してんだって言ってるだろ!!
 美奈子さんだっててめーを心配して、わざわざ田舎から探しに来てくれてンだぞ!」
 早乙女の言葉に、竜崎の動きが止まった。
「……美奈…子?」
「そうだ、田宮美奈子さんだよ。てめーの恋人なんだろ?
 あんな美人に心配掛けやがって! てめー、何様のつもりだ!!」
 最後の方は早乙女の本音が混じっているような気もしないではないが、美奈子の名を聞いた竜崎の瞳に、意志の光りが射したように見えた。
「……美奈子……」
 動きの止まった竜崎を見て、早乙女は角材を手放した。
「そうだ。
 今、和子さんがお前の下宿に案内してるよ。
 だからさ、オレ達と一緒に帰ろうぜ。な?」
 手を差し伸べる早乙女。
 あれだけ無表情だった竜崎の顔が、苦悩するような、悲しそうな、複雑な表情を見せた。
 が、次の瞬間、
「うわぁぁァあァアああああ!!!!!」
 大声を上げ、竜崎は暴れながら店の外に飛び出してしまった。
 野次馬の人だかりが、飛び出る竜崎を避けるため、モーゼを前にした海のように割れて道を成す。
「竜崎ぃ!!」
 早乙女は咄嗟に追い掛けようとするものの、瓦礫と化している店内の足場の悪さが邪魔をした。
 早乙女が店の外に出た時には、人間とは思えない程の敏捷さで飛び出した竜崎の姿は、もう何処にも見えなくなっていたのである。
「早乙女、あいつどうしちゃったんだろうね?」
 店から出て来たリッキーが言う。
「わからない。
 でも、竜崎の奴……」
 ……泣いていた。
 そう。
 早乙女にはあの時、竜崎の目から涙が流れていたように見えていた。

***

 その騒ぎの一部始終を遠巻きに見ていた姿があった事に、その場に居た全ての人は、気付く事が無かった。
 そして時期外れのトレンチコートを着込んだその姿が消えた時、子供が一人、泣き出していた事も。
 母親は幼い息子がこの騒ぎに怖くなり泣き出してしまったのだと思い、子供を連れ、足早にパチンコ屋の前から立ち去って行った。
 実は、子供の泣いた理由は本当はそうでは無かったのだが、子供の言う事があまりに突拍子も無かったので「怖い思いをしたから、何かを見間違えちゃったのね」と、母親は優しくなだめてあげるのだった。
 その時、子供は隣に居る母の手を握り締めこう言っていた。
「お、おかぁさん……い、いま、ヘビ男がいたの……」



第1章<早乙女と竜崎と> —了—

To be continued.

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ゲッターロボ-The beginning- 005(第1章)2008年03月23日 15時15分27秒

***
 
 柔らかい秋空の陽光が少しだけ傾き始める。
 綺麗なすじ雲が鮮やかに大空を流れていた。

 歓楽街の通りでは、そんな爽やかな秋風を遮るかのように、必死に客を呼び込む店員のあざとい勧誘の声が飛び交っている。
 心地よい秋風すら澱ませてしまう程の雑然さの中にこそ、人の本質という物は存在するのかも知れない。
 通りの角にある新装開店をしたらしいパチンコ屋の軒先には花輪が並び、平日の午後だというのに、遊興にふける客の姿で賑わいを見せていた。
 数年前に施行された連発式パチンコ機の禁止令によりそのブームが下火になったとはいえ、依然としてパチンコは大衆娯楽の殿堂である。
 庶民は綺麗に光る銀色の玉に夢と欲望を乗せ、レバーを弾き続けるのだ。
 内装も新しい店内にはそんな綺麗な装飾とは裏腹に、欲望に満ちた、人の歓喜と悔過が交じり合っている。
 客の一人の若い男は負けが込んでいるのか、灰皿に埋もれたタバコの吸い殻からまだ吸えそうな残り代のあるものだけを選り分けていた。
 シケモクのひとつを口にくわえると、渋い顔をしながらマッチで火を点ける。
 二口も煙を吸い込むと、その火はフィルターに達してしまい、男は再びシケモクを無造作に灰皿に押し付けてしまう。
 男は手にした一個のパチンコ玉を見つめた。
「頼むぞぉ、コレが最後のひとつなんだ」
 男は眉間の前にそのパチンコ玉をかざすと、祈るように呟いた。
 パチンコ台レバーの上、右端にある玉の投入口に、パチンコ玉を持つ男の左手が伸びる。

 大戦の戦後復興も一段落したこの時代。
 土木作業を生業とした肉体労働者から頭脳労働者、いわゆるサラリーマンと呼ばれる新中間層へと労働の質のシフトが起こり始めているこの時代において、己が欲望のまま、享楽的に生きる若者達の姿が目立つようになっていた。
 敗戦を享受した事で築き上げられた平和の中で生きる、行き場の無い衝動がそうさせているのであろうか。
 旧来の道徳感を無視した、快楽にまかせた情動で動く事を良しとする若者達。
 彼らは酒や暴力・異性に溺れ、その青春を謳歌していた。
 とはいえその無軌道振りを心行くままに謳歌出来るのはやはり一部の裕福な者の特権であり、大半の若者は、そんな流行りに憧れ真似をしつつも、生活費すらままならない日々を送っているものである。

 その若い男も御多分に漏れず、親からの仕送りや学費を遊び呆けて使い果たし、ポケットに残ったわずかな小銭で、銀色のパチンコ玉に一縷の望みを託していたのだ。
 大音響で店内に流れる軍艦マーチが、若い男の浅はかな希望の後押しをする。
 若い男はパチンコの盤面を凝視しながら、念を込めるように最後の一投のレバーを弾いた。
 勢い良く玉が天釘へと向かって走る。
 天釘に弾かれ、踊るように落下して行くパチンコ玉。
 風車に絡みつくと、玉は吸い込まれるようにチャッカーに落ちた。
 チン、ジャラジャラ。
 小気味良い音と共に、大量のパチンコ玉が下皿から吐き出される。
「ぃやったぁーーー!!」
 男の念が通じたのか、最後の玉は、見事大化けをしてくれたのだ。
 苔の一念岩をも通すとは、この事であろう。
「こ、コレで3日振りにマトモなメシが食える〜!!」
 ツキが回って来たのか、男が弾く玉は次々にチャッカーへと落下し、見る見る内にドル箱が積まれ始めた。
「うおぉぉ! オレってもしかしてパチンコの天才かよ!
 パチプロで食って行けんじゃねーの?」
 打って変わってのあまりの好調振りに、ハシャギまくる若い男。
 が、調子に乗り過ぎたせいで、隣の席の男に肘をぶつけてしまった事に彼は気付かなかったのだ。
 若い男は横から不意に後頭部を掴まれ、パチンコ台のガラス面に勢いよく頭を叩き付けられた!
「がっ!!」
 ガラスが割れる派手な音と共に、若い男の額からは血が噴き出していた。
「え? ……あ?」
 自分に何が起きたのか解らずに若い男は困惑する。
 一拍のタイムラグの後、激痛が襲って来た。
「い、痛てぇ……
 何すんだよ! てめぇ!!」
 血を流す額を押さえながら、男は隣の人間を睨み付けた。
 欲望のままに生きる事が流行りのこの時代の若者である彼にとっては、喧嘩程度に躊躇は無い。
 誰に喧嘩を売っているんだとばかりに吼えたてる。
 が。
 噛み付いた相手が悪かった。
 そこに居たのは見上げる程の大男だったのである。
 大男はそんな若い男のガンタレなどは意にも介さずに、今度は側頭部を掴むと、再びパチンコ台へと若い男の頭を叩き付けた。
 そのあまりの怪力に、若い男の頭はパチンコ台にめり込んでしまう。
 若い男のドル箱が転がり、パチンコ玉が店内に散乱した。
「うるせーよ」
 大男は、無表情のまま立ち上がった。
 大男は、竜崎達也の顔をしていた。

 突然の乱闘騒ぎに、店内は騒然となった。
 若い男の流血におののき逃げ出す客や、騒ぎを聞きつけ野次馬として取り囲もうする客で店内がごった返す。
 一列に並んでいるパチンコ台の後ろで、当り玉を補給していた店員は何事かとパチンコ台の上から顔を出している。
 店の奥から店員らしき男が数人、飛び出して来た。
 見るからに普通の店員には見えない、がっしりとした体躯の、強面の風貌をしている面々である。
 この店の用心棒の類いであろう。
 用心棒の店員は、竜崎の肩を背後から掴んだ。
「お客さん、困りますね」
 その手は、竜崎の肩を締め上げる。
「ちょっと奥まで来てもらえませんか?」
 口調こそ丁寧だが、威圧するようにドスの利いた声で、用心棒は言う。
「さわるな」
 竜崎は用心棒の手を払い除けるまでもなく、肩越しに裏拳を用心棒の顔面に叩き込んだ。
「うげっ!」
 顔を凹ませ、用心棒が倒れ込む。
「てめぇ! ココを何処だと思っていやがるんだ!!」
 野次馬を掻き分け辿り着いた用心棒が3人、竜崎の回りを取り囲む。
 竜崎は無表情のままだ。
 その怪し気な状況に、野次馬の客達は、店の外へと飛び出して行く。
 気が付けば10人の男達に、竜崎は囲まれていた。
 取り囲む男達の後ろから、サングラスを掛けた男がぬっと現れた。
 どうやらその男が、コイツらのボスらしい。
「困るなぁ、<青空>さんよぉ。
 見ろ。お客の皆さん、びっくりして帰っちまったじゃねーか。
 聞いてるぜ、アンタ、竜崎っていったっけ?
 この落とし前、どーつけてくれんだ? ああ?」
 サングラスの男は、ねぶるように竜崎の顔を睨み付ける。
 実はこのパチンコ屋、どうやら新しく出来た天地会の拠点のひとつらしい。
 竜崎を取り囲む男達は皆、天地会の構成員だった。
「どーするもこーするもあるかぁ!
 こーしてくれるんだよ!!」
 今まで何処に隠れていたのか、青空組のチンピラが二人、竜崎を取り囲む連中の背後から襲いかかった。
 手には小刀を握りしめている。
 狙いはサングラスの男だ!
 しかしそれは見抜かれていたのか、竜崎を取り囲んでいた男達に、いとも簡単に取り押さえられ、袋叩きにされてしまった。
「<青空>さんも、随分とセコイ真似してくれるじゃねーか」
 サングラスの男はくわえたタバコに火を点けた。
 ふぅと煙を吐く。
「もういい、かまわねーからそいつも畳んじまいな」
 男達が竜崎に一斉に飛び掛かった!

To be continued.

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ゲッターロボ-The beginning- 004(第1章)2008年03月22日 04時43分08秒

 ………………………
 ………………………

「う〜ん……」
 研究室の床に寝かされていたチンピラヤクザが目を覚ます。
 が、起きるなり「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」と叫び声を上げて、再び泡を吹いて失神してしまう。
 それはまるで、世にも恐ろしい何かを見たかのような絶叫だった。
「……早乙女君、なんだねコイツは?
 人の顔を見るなりまた気絶しおったぞ」
 敷島教授がチンピラヤクザを覗き込んでいたのだ。
「いやぁ、ソレは無理も無いかと……」
 早乙女が苦笑いをする。
 敷島教授——早乙女が通う大学院で教鞭を取る、早乙女の師匠とも言える人物である。
 敷島自身が過去に行った実験の失敗による事故が原因で、その顔の半分は焼けただれており、引きつった筋肉が左右の目の大きさを変えてしまっているのだ。
 そんな敷島の姿が不意に視界に飛び込めば、気を失ってしまうのも無理は無い。
 デブとヤセの二人のチンピラがあわてて介抱すると、顔に二の字の下駄の跡を付けたチンピラが、ようやく息を吹き返した。

 彼の話の内容はこうであった。
 早乙女がこの地域で一番力を持っていた<羅王組>を壊滅してしまったために、この地区のヤクザ組織の空洞化が起こり、全国支配を目論む広域暴力団が手を伸ばして来たのである。と。
 地元密着型の小さなヤクザ組織である自分達<青空組>は<羅王組>とは不可侵の条約を結んでいたものの、<羅王組>が壊滅してしまった今、その広域暴力団<天地会>は非道な手段を用いて<青空組>のシマを取り上げようといているのだ。
 そのためにも、少しでも腕っぷしの強い構成員を探していた所、街中で暴れている竜崎という男を見付け、スカウトしたのだという話である。
 つまるところ話の大元としては、ヤクザの縄張り争いが起因するらしい。
 そしてその起因には、早乙女も無関係では無いとの意味合いを含んでいた。

「でもね、早乙女の旦那。聞いてくださいよ。
その竜崎って野郎はムチャクチャな野郎で、普段は大人しいんですが突然暴れ出しては組の机や壁、そこら中の物を壊しまくるし、兄貴分のオレらの言う事なんざ聞きもしねー、手の付けられないとんでもねーヤツだったんですよ。
 ハジキが飛び交う中も平然と突き進みやがるんで、そりゃ天地会との小競り合いの時なんかには役に立ちましたけど、一旦暴れ出すとそこらに居るカタギの人間にまで無差別に手を出して、殺しちまうんじゃねーかって騒動も一度や二度じゃすまねーって始末でして。
 この間なんざ、それじゃ流石にマズイだろってんで、組長に頼んでそんな竜崎をいさめてもらおうとしたら、逆に顎の骨を砕かれましてね。組長、今入院なさってるんですよ。
 本来、親に手ぇ上げたそんな野郎は破門どころかコンクリ詰めにして海にでも沈めちまうトコロなんですが、なにぶんこんな状況ですから力のある駒は欲しい。と、組長も寛大なお心を示してくださった。
 なのに、組長不在をいいことに『天地会に対抗するには今の組長じゃ生温い』なんて一派が、竜崎の奴を祭り上げ始めちまいまして、ウチの組、もう今メチャクチャなんでさ。
 組長に大恩のあるアッシらにしてみれば、この組の一大事に指をくわえて黙っているワケにも行かず。
 そんな時に早乙女の旦那のお噂を聞きつけ、お知り合いでもある竜崎の奴に、ガツンと一発お灸をすえていただけねーモンかと。
 こうして頭を下げにお願いしに来た次第であります。
 それにしてもあの竜崎って奴ぁ、何ですかね、バケモンってでも言うんですかね?
 刀で切りつけられても、切りつけた刀の方が折れちまいますし、とうてい人間とは……」
「ああ、もういい。わかったから」
 このチンピラは、本来緊張さえしなければきっと大阪のオバサンみたいなオシャベリな性格なのであろう。
 喋りたい気持ちが喋るという行為より先に来てしまうから、不必要に舌を咬んでしまうのだ。
 マシンガンのように息つくヒマも無く一気に喋り倒すチンピラを、もう充分だとばかりに制止し、早乙女は腕を組んだ。
「アンタの話を疑う訳じゃ無いが、それ、ホントに竜崎か?」
「ええ、紛れもなく竜崎達也の事でさ。早乙女の旦那の話も、竜崎の奴から聞いた事がありやしたんで、今こうしてお話させていただけてやす」
「まさかてめー、竜崎にヤク打ったりしてねーだろーな。
 今じゃヒロポンだって違法なんだぜ」
「め、滅相も無い。天地会のヤツラならどーだか知らねーケド、ウチではヤクは御法度なんでさ。
 組長にきっつく戒められてやす」
 早乙女は口をヘの字に結び、考え込んだ。
 チンピラの話が本当ならば、それは早乙女にとって、にわかには信じられないものであった。
 早乙女の知る竜崎は、背丈こそ大柄ではあるが理論派であって肉体派では無い。典型的な学士タイプなのだ。
 格闘技の経験どころか、運動関係全般に関し不得手だった筈なのである。
 手より先に口の方が回る性格で、竜崎が傍若無人に暴れ回る姿など、まったく想像すら及ばない。
 覚醒剤中毒でも無ければ、いったい何が竜崎の身に起きたのであろう。
「わかった、行こう。リッキー、付き合ってくれ」
 ここでうだうだ考えていてもラチが開かない。
 何より行方不明の竜崎の情報が思いも因らぬ形で飛び込んで来たのだ。調べる価値は充分にある。
 こういう時の早乙女は、決断も早ければ行動も早い。
「え? 御助力いただけるんですか?」
 チンピラヤクザの顔が明るくなった。
「別にあんたらの手助けをするつもりは無いさ。竜崎に会いに行くだけだ。
 で、あんた名前は?」
 早乙女はチンピラヤクザの名前を聞く。
「へい、申し遅れました。
 アッシが<イボマラの竜作>。
 隣のヒョロヒョロとした野郎が<七曲がり千吉>。
 こっちのグラサンかけてますデブな野郎が<子宮突きの水膜>でさ。
 どいつもチンケなヤクザ者ですが、どうかひとつ、お見知りおきを」
「……また随分と凄い名前だね」
 こんなどーしようもない二つ名を構成員に付けて喜んでるような組ならば、天地会や竜崎とは関係無しに、もしかして潰れても当然なんじゃなかろうか?
 間抜けな彼らの名前を聞いて、早乙女はこめかみを押さえた。
「いや、そんな。褒めないでくださいよ、旦那」
 真顔で照れてる竜作。
 ダメだこりゃ。と早乙女は心の底から思った。
「ねぇねぇ、和子達どうしようか?」
 リッキーが聞く。
 有線の家庭用電話もまだまだ普及率が高く無いこの時代、外に出てしまった和子に直接連絡を取る手段は当然の如く、無い。
 竜崎の下宿の大家に伝言を頼むという手も、あることはあるが……
「コイツらの話もどこまで信用したものかもわかんねーし、とりあえずオレたちだけで行くしかないだろ」
 それにヤクザ者とつるんで行動してると知ったら、和子の雷がまたいつ落ちるとも限らない。
 それだけは何としても避けたい。という気持ちも早乙女にはある。
 和子も美奈子を送ったら、また学院に戻って来ると言っていたのだ。合流するならそれからの方が連絡が取りやすいだろう。
「イボマラさん、竜崎の居場所は解るんだな?」
「へい。今の時間なら詰所の方に行ってるハズでさ」
 早乙女の問いに即答する竜作。
「よし。案内してくれ」
 チンピラヤクザを従え、足早に早乙女が部屋を出て行こうとした時、敷島教授が呼び止めた。
「ん? おい、早乙女君。レポートはどうするつもりだね?」
 敷島教授は、早乙女のレポート制作の進行具合をうかがいに研究室に来ていたのである。
「すみません教授。ちょっと急用が出来てしまったんで、もう少し待ってもらえますか?
 今日中には提出しますから」
 そう言い残すと、早乙女とリッキーと三人のチンピラヤクザは研究室から飛び出して行った。

 一人取り残された敷島教授は、頭をポリポリと掻きながら、とぼとぼと廊下を歩いていた。
「……仕方ないのぉ。勝手に進めとくか」
 何かをぶつぶつとつぶやいた後、突然閃いたかのように、奇声のような大きな声を上げた!
「おっ! そうじゃ!! ジェネレータの出力を3倍にしてみたらどうじゃろうか!
 圧縮工程に負荷がかかるが、そっちの方が破壊力が上がるしのぉ〜」
 自分の発想に小躍りしながら廊下を飛び跳ねる敷島。
 楽しそうである。
「いやぁ〜、早乙女君も実に興味深いエネルギー見つけたモンじゃ。
 コイツを使えば、面白い兵器が色々と作れそうじゃわい。」
 ……実に楽しそうである。

To be continued.

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ゲッターロボ-The beginning- 003(第1章)2007年10月29日 03時08分05秒

*** 

「リッキー! 何でヤクザとの事、バラしたんだよ!」
 早乙女は涙目になりながら、リッキーの胸倉を掴んでいた。
「アタシじゃ無いって、事故よ、事故。噂話を和子が耳にしちゃったんだってば。
 大体さ〜、隠し通せるワケ無いじゃない」
 リッキーは、早乙女に揺さぶられながら苦笑いをする。
「そ〜かぁ、そりゃそうだよな。
 ……どうしょうリッキー。コレでもう正座で説教一晩中コース、決定かも。
 和子さん、怒らせると怖いんだよ〜」
 ヤクザ組織を壊滅させたとは人物とは思えない程の情け無い声を出し、早乙女はうなだれた。
「わはは、知ってる」
 リッキーは苦笑いをするしか無い。

 早乙女は、頭脳明晰でスポーツ万能。正義感も強く、それはもう超人的ヒーローのような資質を持った男である。
 文武両道を地で行くような熱血漢なのだ。
 が、いかんせん。天は二物を与えず。
 直情的な短気さ・短絡さの性格と、いまひとつ寸足らずな背格好、不細工とは言わないが美男子とは言い難い容姿が相まって、残念ながら女性からの評価はイマイチである。その分、野郎共からの人気は絶大な物を誇るのだが。
 そんなこともあり、全身全霊を込めてようやく口説き落とした相手である和子に対し、早乙女は情けない程に頭が上がらないのだ。
 そのくせ頼まれたら嫌と言えない性分と、騒動事には喜んで顔を突っ込む悪癖のため、毎度飽きもせず和子を怒らせては平謝りの日々なのである。

「仕方ない、とっととレポート終わらせるかぁ……
 竜崎の奴が居ないから、大変なんだよなぁ」
 早乙女がうなだれながら研究室に戻ろうとすると、背中越しに声がした。
「早乙女の旦那!」
 先程早乙女にノされたチンピラたちがいつの間にか息を吹き返したのか、早乙女を囲んで片手を突き出し、控えている。
「なんだ、あんたらまだ居たのか。もう帰っていいぜ。靴は脱いで行けよ」
 早乙女はチンピラを追い返すように元気無く手をひらひらとさせる。
「いえ! 羅王組を壊滅させたという旦那の拳、味合わせていただき確信いたしやした!
 アッシらが頼るのはこの方しか居ないと!!」
「はぁ?」
「アッシら組の一大事、ぜひ御助力いただきたくたく……参上ちかまりました次第れ…でっ!」
 顔に二の字の下駄の跡を付けたチンピラは呂律が回らなかったようで、自分で舌を咬み、悶絶した。
「アニキ!」と声を上げ、二人のチンピラが介抱する。
 なんだコイツら?
 早乙女の脱力感に輪が掛かる。
「なんだい、早乙女? よく解んないケド、面倒ならアタシがコイツらおっぽり出してやろうか?」
 リッキーがポキポキと指を鳴らした。
「そ、そんな姐さん、滅相も無い! 旦那に御迷惑を掛ける気などさらさら……」
 二の字跡のチンピラが舌でも切ったのか、口からダラダラと血を流しながら、ぶるぶるぶると首を振る。
 あまりに激しく振るものだから、口から流れてる血がピッピッと四方に飛びまくる。
「あ、姐さん? アタシが?」
 呆気に取られるリッキーだが、早乙女は早乙女で呆れ果てた。
「何のつもりだか知らねーけど、どーせ面倒事頼みに来てんだろ? 迷惑を掛けるつもりは無いも何もねーだろーがよ」
「いや、御高説ごもっとも!!」
 チンピラは早乙女に食い入るように顔を近づけ返事をした。
 あまりにも大きな声で返事をしたため、ぶばっ!と早乙女の顔にチンピラの唾が掛かる。
 唾液に混じった血も掛かる。 
 早乙女はムッとしながらそれを拭った。
「ですが旦那!」
 チンピラはさらに早乙女にのし掛かる程に顔を近づけ、大きな声で唾を飛ばしながら喋り出した。
 チンピラの飛ばす血混じりの唾が、イヤと言う程早乙女の顔にひっ掛かる。
「ここで旦那に助けていただけないと、アッシら組は壊滅の危機でありまして!
 アッシもココで引くに引けない覚悟で参りやしたからには! 早乙女の旦那の御助力を取り付けないと帰るに帰れ無いというか、もう既に帰る所が無くなり掛けてると言いまするか、是非是非、ココはひとつ『うん』とおっさっれいだだぎだく、お長い申し上げたてまつり……でっ!!」
 ……また咬んだ。今度は深く咬んだのか、ドクドクと口から血を流してうずくまる。
「アニキ!」と声を上げ、二人のチンピラが介抱する。
 早乙女は、頬をヒクヒクとひきつらせながら顔に付いた血混じりの唾液を再度拭うと、……キレた。
「ざけんじゃねーぞ! ゴラァ!! 汚ねー唾、人にひっ掛けやがって!
 さっきのやりとり薄目開けて見てたんだろーがよ! あ? 
 オレは金輪際、ヤクザ野郎とかかわらねーコトに決めたんだよ!!」
 チンピラの胸倉を捩じり上げ、ヤクザ者も逃げ出す程の迫力で恫喝する。
 実際、残りの二人のチンピラは、リッキーを盾にして後ろにサッと隠れてしまった。
 しかしながら、こうして相手をしている時点で既にチンピラヤクザと関わってしまっている事実に、キレた早乙女は気付いてはいない。
「で、でも……ココで旦那に協力して戴かないと、アッシら……アッシら……」
 悪鬼のような早乙女の恫喝に、チンピラは情け無くも泣き出してしまった。が、そんな事はキレてる早乙女には関係無い。
「人の話を聞いてんのかよ! コラ?」
 ビシビシビシと往復ビンタをかます。
「アッシも覚悟決めて来てるんですぅ……くすん。竜崎って野郎の御友人だっていう旦那だからこそ、うええぇぇん……こうしれお頼み申しあげれ……でべっ!!!」
 ……………また咬んだ。
 鼻水は垂れ、涙でぐちょぐちょになり、口からは滝のような血を流し、顔には二の字の下駄の跡。おまけに頬はビンタで赤く膨れ上がる。
 チンピラの姿は見るも無残になっていた。
 てか、コイツらホントにチンピラヤクザ? と思える程に、あまりにも情け無い姿である。
 が、そのチンピラのセリフを聞いた瞬間、早乙女の目の色が変わった!
「おい! 今何て言った!! なんでてめーから、竜崎の名前が出て来るんだ! おい!!」
 早乙女は意外な人間から意外な人間の名前を聞き、驚いた。
 チンピラの身体をガクガクと揺すり、問い質す。
「あべっ!……らから……へべっ!!………りうざきの野郎を……ぐすん……らんらり………べれっ!」
「泣くのか舌咬むのか答えるのかハッキリしろコラ!!」
 早乙女に揺さぶり続けられたそのチンピラは緊張すると舌を咬む癖があるらしく、結局何も語れぬまま、小便を漏らし「……キュウ」と失神してしまった。

To be continued.

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