ゲッターロボ-The beginning- 002(第1章)2007年10月28日 01時05分56秒

---第1章 早乙女と竜崎と---

「早乙女? ああ、アイツならココ1週間ずっと研究室に閉じ篭もりっ放しだよ?
 何でもヒミツの研究やってるんだって。マッドサイエンティスト予備軍だね、あれは。
 そうそう、知ってる? アイツ、この前ヤクザの事務所、ひとつ壊滅させたんだってよ。
 何でもウチの学生を麻薬漬けにして食い物にしてたヤクザを頭に来て追い詰めてたら、知らない内に組がひとつ潰れてたんだって。アイツらしいよなぁ〜」
 早乙女とは仲が良いらしいその院生は、立板に水の如く、聞いてもいない事までも嬉々としてべらべらと話し始めた。
 早乙女の居場所を訊ねただけのリッキーは、彼の長話に閉口した。
「あはは……」
 リッキーは親指を立てた拳を肩越しに後ろに向け、ちょいちょいと指を差す。
 リッキーの大きな身体の後ろに隠れて見えずにいた女子学生の姿を目に止めると、その院生はあわてて口をつぐんだ。
「あ。と、とにかく早乙女なら二階の研究室に居ると思うよ」
 バツが悪いのか、その院生は最後にそれだけ言うと逃げるようにその場を立ち去ってしまう。
「ま、まぁ早乙女も、それだけ正義感が強いってコトなんだからさ。いいコトじゃない」
 女性とは思えぬ程に大柄なリッキーが、後ろに居る女子学生に気を遣い、なだめるように話し掛ける。
「早乙女くん……また私の知らない所で無茶ばかりしてる」
「あ、あの、和子さん? そんなに怒らないで。ね?」
 普段は大人しい和子だが、こうなってしまうと手がつけられない。
 ただでさえ早乙女の無茶さ加減に、いつも心労が絶えないのだから。
「リッキー! あなた知ってたでしょ!!」
 知ってるも何も、早乙女が起こす騒動には、大抵リッキーも一枚咬んでいるのが定石だ。
 それが暴力沙汰となれば尚更である。
 男勝りどころかゴリラ並の体格と腕力のリッキーにとって、自分の力を思う存分振るえる場面を幾度と無く提供してくれる早乙女とは、最早腐れ縁と言って良い。
「いや、だからね。アタシもちゃんと早乙女の後ろを守ってあげてたし、アタシたちは怪我だって誰もしなかったんだから……」
 相手のヤクザは病院送りどころの騒ぎじゃ無かったけど……と言いそうになって、リッキーは言葉を飲み込んだ。
「そういう事を言ってるんじゃありません!!」
 和子の背後から、怒りのオーラがメラメラと立ち上った。
 この二人、無双力(むそう りつき)・通称リッキーと和子は親友である。
 大学生である彼女ら二人は、同じ敷地内に併設されている大学院に通う早乙女とはゼミで知り合い、仲良くなった。
 和子に一目惚れをした早乙女からの執拗なアプローチに折れ、和子と早乙女は時を待たずして付き合うようになり、リッキーと早乙女はお互いの気っ風の良さに触れ、気の置けない間柄になるのに時間は掛からなかった。
「あ、あの……それで、早乙女さんという方はどちらに?」
 二人がおかしな雰囲気になりそうなのを見かねたのか、白いワンピースの女性が声を掛けた。
 清楚な顔立ちの、長い黒髪が綺麗な色の白い女性である。
「あ、ご、ごめんなさい。はしたない所をお見せしちゃって。
 この上の研究室に居るみたいですから、御案内しますね」
 元々は早乙女を訊ねて来たこの女性を、二人で案内していたのだ。
 我に返った和子は、普段の大人しい丁寧な口調に戻っていた。
 和子の雷が落ちずに済んで、リッキーは胸を撫で下ろした。
 そう。和子の雷には、いくら天下無双のリッキーでも、勝てはしないのだから。

***

 見渡す限りの青空が、抜けるように高い。
 そんな秋晴れの爽やかな陽気に、まるで不釣り合いの罵声が校舎中に響き渡った。
「早乙女ってのは、どいつだ!!」
 チンピラヤクザ風の三人組が、ダミ声を張り上げながら木造校舎二階のとある研究室に怒鳴り込んだ。
 が、次の瞬間には窓ガラスの割れる音と共に、三人共廊下に投げ出されているのである。
「人の研修室に土足で入って来る莫迦が居るか!!」
 三人を窓から投げ飛ばした小柄な男はパンパンと手を払うと、自分自身はちゃんとドアをくぐり、ゆっくりと廊下に出た。
 小柄ではあるが、がっしりとした体躯の男。
 白衣を着ていなければまるで研究者とは思えぬような、悪ガキ風の容姿を持つその男こそ、誰あろう早乙女本人である。
「てめぇ! やりやがったな!!」
 チンピラたちは起き上がると、一も二も無く早乙女に殴り掛かる。
 早乙女はそれをひらりとかわすと、デブとヤセの二人のこめかみをそれぞれピンポイントで打ち抜き失神させ、残りの一人の鳩尾(みぞおち)に拳を打ち込み、悶絶させた。
 鳩尾を押さえのたうちまわるチンピラ男の顔を、履いてる下駄で思い切り踏み付けると、顔に二の字を跡を付けたその最後の一人も静かになった。
 早乙女は高校時代に、所属していたラグビー部で友人のスパイクを借りて水虫を移されて以来、二本下駄を常に愛用しているのだ。
 ある意味今やその下駄は、早乙女の必殺武器の一つと言ってもいい。
「まったく、この手のヤツラは土足厳禁の文字も読めねーのかよ」
 ちなみに早乙女は下駄を上履き用と下履き用とで、ちゃんと使い分けている。
 早乙女が気を失ってるチンピラたちの頭を足で小突き、起こそうとした。その時、
「早乙女くん!!」
 声に振り向くと、和子が鬼の形相で仁王立ちをしていた。
「か、和子さん!?」
 早乙女の身がすくんだ。
「な、何でここに?」
「何でも何も無いでしょう! それとも何かしら? 私がここに来ちゃいけない理由でもあるの?」
「い、いえ別に……」
 和子の後ろでリッキーがニヒヒと笑っている。
「聞いたわよ! またヤクザと揉め事起こしたんですって? 何考えているのよ! 心配するじゃない!!
 それなのに何? 今もこんな喧嘩なんかして!!
 私がいつもどれだけあなたの事を心配してるか解ってるの?!」
 和子は早乙女の耳を引っぱり上げた。
「いたっ! 痛いよ和子さん!」
「痛いじゃ無いでしょ! 怪我したらこの程度じゃ済まないんですからね!!」
「わかった、解ったから……」
「解って無い!!! ——この前だってそうよ! 拳銃持ってる強盗犯の前に飛び出して!
 そりゃ人助けは立派ですけど、あなたに何かあったらどうするのよ!!
 心配するコッチの身にもなりなさいよ!!!」
 和子はさらに指に力を入れ、早乙女の耳をギリギリと引っ張り上げる。
「痛てて……り、リッキー……見てないで助けて……」
 早乙女は思わずリッキーに助けを求めた。
 リッキーが恐る恐る口を挟む。
「和子、早乙女だって悪気があったワケじゃ……」
「リッキーは黙ってて!」
「……はい」
 取り付く島も無く一蹴されるリッキー。
「いっつも、いっつも、いつもいつも! 自分から危ない事に首突っ込んで!
 なんで私があなたの事をこんなに心配しなきゃならないの?
 いいかげんにしてよね!
 ……私、何でこんな人、好きになっちゃったんだろ……」
 早乙女の耳を引っ張る力が緩むと、和子は目を潤ませていた。
 怒りの感情が昂ぶり過ぎて、泣き出してしまったのである。
 こうなると普段は豪放磊落が売りの早乙女も形無しだ。
「ご、ごめんよ、和子さん。もう無茶はしないから、ね?」
 必死に詫びを入れ、和子の機嫌が収まるのを待つしかない。
 まぁ、それがこの二人の喧嘩のいつものパターンな訳なのだが。

「ほらほら、和子も機嫌を直して。
 早乙女ぇ、和子はアタシが見ててあげるからさ。アンタにお客さんだよ」
 リッキーはその大きくふくよかな胸で和子を抱き寄せると、よしよしと頭を撫でた。
 和子はハンカチを取り出し、リッキーの太い腕の中で自分の涙を拭っている。
「何だか恥ずかしい所をお見せしちゃってすみません。
 で、どちら様ですか?」
 早乙女は自分を訊ねて来たという、女性に話し掛けた。
 清楚な印象のその女性は、今の一件で呆っ気に取られてしまっていたようだ。
「あ、ああ? あ、いえ、すみません。
 あなたが早乙女さんでいらっしゃいますでしょうか?」
「ええ」
「申し遅れました、私、田宮美奈子と申します。——実は、竜崎達也の事でお聞きしたい事が……」
「竜崎の?」
「はい。私、達也さんとは同郷で、幼なじみなんです。
 進学で上京してしまった彼とは、ずっとお手紙で連絡を取り合っていました。
 ですがこのひと月、彼からの連絡が途絶えてしまって……
 下宿の大家さんにお電話をしたりもしたのですが、下宿先にもあまり帰っていないようでして、心配になりこちらの大学院を訪ねれば何か解るのではないかと……」
 幼なじみと彼女は言うが、早乙女には、竜崎に向けられる彼女の思慕の情はそれ以上のものであるように感じられた。
 そうで無ければ女一人で、わざわざこんな遠くにまで田舎から出向いて来る事も無いだろう。
「達也さんからのお手紙の中に、幾度も早乙女さんの事が書かれていまして、とても信頼の出来るお方だと。
 ですから御迷惑かと思いましたが、お訪ねさせていただきました」
 まったく。こんな奥ゆかしい大和撫子な美人の女性に惚れられていただなんて、竜崎め、何て羨ましい奴。あんな朴念仁には勿体なさ過ぎるってモンだ! 世界の七不思議だね、こりゃ。
 早乙女は竜崎に軽い嫉妬を覚えた。
 とは言うものの、和子を彼女にした早乙女の事も周りの人間から見れば「美女と野獣のカップル」と言われ、不思議がられているのだ。
 隣の芝生は青く見える。とは、よく言ったものである。
「それで……達也さんの事、何か御存知ありませんでしょうか?」
 心配そうな顔で真剣に尋ねる美奈子に、早乙女は、無用な心配は不要である。と、出来るなら伝えてあげたかった。しかし……
「すまない。実はこのひと月、竜崎は大学院の方にも来ていないんだ……」
 1ヶ月前。あの未知のエネルギーの実験の日以来、竜崎は大学院に来なくなってしまっていた。
 心配した早乙女たちが何度となく竜崎の下宿を訪ねてはいるのだが、その度に不在で、会えず仕舞いのまま今日まで来てしまっている。
「そうなのですか……何かお心当たりはございませんか?」
 心当たり——そう聞かれて早乙女は言葉に詰まってしまう。
 未知のエネルギーを<ゲッター>と呼び、恐れおののいたあの瞬間から竜崎が変わってしまった事は確かである。
 しかし、そんな話を美奈子にした所で意味があるのだろうか?
 早乙女自身、何故竜崎があんなにも脅えたのかすら理解出来ずにいるというのに。
「ごめん、オレには解らない……」
 実際の所、竜崎の行くあても見当が付かない今、早乙女にはそう答えるしか術が無い。
「そうですか……」
 暗く沈んでしまう彼女を見ると、早乙女までいたたまれない気分になってしまう。
 美奈子という女性は、今にも手折られそうなはかなげな表情が、何故こんなに似合ってしまうのだろう。
 早乙女は元気づけるように、わざと明るい声を出した。
「美奈子さん、竜崎の下宿にはもう行きました?」
「いえ、まだですが……」
 駅からは竜崎の下宿より大学院の方が近い。先にこっちに来たようである。
「よかったら、これから行きませんか?
 こんだけ長い間留守にしてるんだ。竜崎のヤツも、いいかげんぼちぼち帰って来るんじゃないのかな?
 それにオレたちじゃ勝手に部屋に入れなかったけど、美奈子さんなら『妹です』とか言えば大家さんから鍵を貸してもらえるかも知れないし。
 部屋に入れれば、何か手掛かりが見つかるかも知れませんよ?」
 伏せ気味だった美奈子の顔が上がる。
「よろしいのでしょうか?」
「いいんじゃないですか? そんなに心配してくれているんだから、竜崎のヤツだって怒りはしないでしょ。何ならオレの入れ知恵のせいにしてもいいですし。
 ——あ。でも今ちょっと急ぎのレポートまとめないといけないから、手が離せないな……
 2時間程待ってもらえるなら、案内出来ますけど。それとも急ぐなら地図でも描きますよ?」
「あ、いえ。そんな、お気遣い無く……」
 手紙のやりとりをしているくらいだ。彼女も竜崎の住所は知っているのだろう。美奈子は奥ゆかしく遠慮をする。
「私が御案内しましょうか?」
 和子が二人の会話に入って来た。
 どうやら気持ちも落ち着いたらしい。普段の優しい口調に戻っていた。
「はしたない所をお見せしてしまったお詫びと言っては何ですが、御案内させてください」
 早乙女が怒らせさえしなければ、和子は本来優しくて聡明な女性なのである。
「よろしいのですか?」
「ああ、そうしてもらってください。和子さん、お願い出来ますか?」
 和子はコクリとうなずいた。
「んじゃ、アタシも付き合おうか」
 リッキーが会話の尻馬に乗る。
「あ、ゴメン。リッキーにはちょっと用があるんだ。申し訳無いが和子さん、お願いします」
 早乙女はにこやかな顔でリッキーを引き止めると、二人を送り出した。
 出掛け際、和子はこう言い残す。
「早乙女くん。私が戻って来るまで帰らないでね。私もあなたにお話がありますから」
 和子はまだ、怒っていたようである。

To be continued.

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コメント

_ ひろz ― 2007年10月28日 01時33分48秒

早乙女博士の奥さんである早乙女和子にも旧姓の設定が無いので、小説のヒロインとして書くのはなかなか辛いです(笑)。
コレばかりは、流石に勝手に付ける訳にはいかんからなぁ〜。
てか、主人公クラスのキャラ二人にフルネームが存在しないとは〜!!
オレにどうしろと!(笑)。
脇キャラばかり、フルネームがありますよ。

竜崎達也と田宮美奈子は私のオリジナルですが、リッキーは『心霊探偵オカルト団』からのスピンオフです。
どっちかってーと、私にとってリッキーは『手天童子』のキャラのイメージが強いんですが、こーゆーコトするなら出来れば石川作品縛りでやりたい。と思ってた所、そーいえば『オカルト団』なら石川賢も合同名義になってるじゃないか。と一安心(笑)。
いや。役どころのイメージ的にどうしてもリッキーを使いたかったので、それでも使ってたような気がしますが。

あ、和子の性格設定はかなりアレンジが入っています(笑)。
それにしても、書けども書けどもお話が進まないな〜。

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