ゲッターロボ-The beginning- 001 ― 2007年10月26日 03時44分06秒
今は亡き、石川賢先生に捧げます。
---Prologue---
稲妻が光った。
それまで眩しい程に輝いていた丸い月は、この時を境に変わってしまうであろう未来を知っているのか、今から起きる出来事に目を背けるかのように黒い雲の中に隠れてしまう。
垂れ込めた暗雲から降り出した大粒の雨が、誰も居ない木造校舎の窓ガラスを激しく叩く。
灯の消えた夜の校舎の中を、懐中電灯が照らす光を頼りに巡回していた警備員が、廊下に響き渡ったその雨音の大きさにびくりとする。
夜間の定時巡回をしているその若い警備員は、真っ黒な夜空を窓越しに見上げ、つぶやいた。
「もう秋だって言うのに、生暖かくて、なんだか嫌な雨だなぁ……」
一歩足を踏み出す毎に、廊下の床板がぎしりと鳴る。
「こっちはいつ来ても薄気味悪いんだよな……」
警備員が巡回しているこの大学院は、新設された鉄筋の校舎が建ち並ぶ、国内最先端の大学院である。
しかしながらこの木造の校舎だけが、戦後の復興から取り残されたかのように、敷地の隅にひっそりと建ち続けているのだ。
警備員がおじけるのも無理は無い。
戦前から建つこの校舎では、昔から、怪しい噂が絶えないのだから。
曰く、軍に指示され大量殺戮兵器を研究していた狂気の学者の怨念が、現在も彷徨っている。
曰く、その時に人体実験され命を失った多くの被験者のすすり泣く声が夜な夜な響き渡る。
等と、挙げれば切りの無い噂。
それが根も葉も無い噂と解ってはいても、気味が悪いものは悪い。
こんな夜だ。手短かに巡回を終わらせて、とっとと詰所に戻るのが利口というものさ。
そう決めると、警備員は足早に歩を進めていた。
防火設備の存在を示す紅いランプの傍に差し掛かった時、稲妻が落ちた。
夜空が一瞬だけ眩しく光り、轟音が鳴り響く。
落雷の音が極めて近い。
「ひっ!」
警備員は思わず身をすくめ、驚きのあまり懐中電灯を落としてしまった。
落とした拍子に電球でも切れたのか、懐中電灯の灯は消えてしまう。
「……落雷?」
警備員は窓の外を見た。
闇に包まれ、雨に遮られた周囲の風景に見えるものは何ひとつとして無く、窓を叩く豪雨の音だけが長い廊下にただただ響き渡る。
防火設備のランプだけが廊下を紅く照らしている。
嫌な汗が背中に流れた。
再びの稲光。
紅いランプがふっと消える。
立ちすくむ警備員。
「……停電?」
辺りが全て完全な闇に包まれた。
その時、警備員は気付かなかった。
窓の外——豪雨を降らせる暗雲の隙間から、鳥とは思えぬ程に大きく羽を広げた姿を持つ複数の影が、稲光の間を縫うように舞い降りて来た事に。
***
「……停電か?」
闇に包まれた部屋には影が二つ蠢いていた。
その二つの影は、まるで宇宙人のように見える異様な姿の服で全身を包み、目の所に大きな偏光グラスが埋め込まれたマスクを、頭から被っている。
「仕方無い。自家発電に切り替えよう」
言葉を受け、影の一人がごそごそと動いた。
手探りで、スイッチでも探しているようである。
しばらくすると、耳障りな機械音と共に室内灯が薄暗く光り出す。
室内灯に照らされたその部屋は、四方をコンクリートで囲まれた味気の無い地下室であった。
剥き出しのコンクリート壁の無機質さに違わぬように、部屋の中には最先端と思える無機質で巨大な機械が、所狭しと配置されている。
何やらそこは実験室のようである。
ひとつしかないその地下室の出入り口には、頑丈で強固な扉が設けられていた。
扉には、外にも中にもRIマーク(アールアイマーク:放射能標識)が、でかでかと描かれている。
二人組が異様な姿をしているのは、放射能の防護服を着込んでいるためのようだ。
「暗くないか?」
防護服を着た背の高い一人が訊ねる。
「仕方無いだろ? これ以上電力を余計な事には使えんよ」
背の低い方が答える。
背の高い方はあきらめるように肩をすくめると、マスクに遮られくぐもって聞こえる声で、こう言った。
「それでは、始めようか。早乙女」
噂が立つのにも理由がある。
その木造の校舎は、戦時中、確かに軍の研究施設と化していた。
もっとも大戦当時、軍に協力をしない学士施設など存在もしようが無い訳で、この学院とて例外では無かったという話なだけではあるが。
実用まで漕ぎ着けはしなかったが、核融合やそれ以上の研究も当然の如く行われていた。
木造校舎の地下実験室。
それこそが、その名残なのである。
そして終戦から10年程が経とうとしている現在、院生に解放され、実験施設として一部生徒の研究の根城となっていた。
防護服に身を包んだ二人の生徒。
背の低い男は早乙女と言い、背の高い男は竜崎と言う。
「出力調整、どうだ?」
「2.0……2.5……何とか行けそうだ」
二人は複雑な最新鋭の分析機器を一心不乱に調節する。
もしも早乙女の理論が正しければ、人類は無限のエネルギーを手にする事が出来るかも知れないのだ。
それは浅間山に落下した隕石を、早乙女が調査に出掛けた事が切っ掛けだった。
地球上には存在しない鉱物。
後に早乙女が<G鉱>と仮称した鉱物が、その隕石には内包されていた。
そしてその鉱物を精製する過程で、早乙女はあることに気付く。
宇宙線が<G鉱>を透過した際、極々微量ながら発せられる未知のエネルギーの存在を、理論上に示したのだ。
もしそのエネルギーを宇宙線から抽出する事が出来れば、人類はエネルギー問題から解放されるかも知れない。
それに気付いた時、早乙女は狂喜した。
幼い頃から描き続けている夢である宇宙開発が、未知なるエネルギーの存在によって、より現実的な物と化して行くかも知れないのだから。
宇宙線から直接エネルギーを取り入れる事が出来るのならば、重量のかさむロケット燃料を積み込む事も無い。
永遠の宇宙航行を行える船さえ造る事も可能だ。
未来図が早乙女の中で膨らんで行く。
だからこそこの日、親友の竜崎に協力を頼み、未知なるエネルギーの抽出実験を敢行するに至ったのである。
早乙女が一目置く程に優秀な学徒である竜崎ならば、信用が出来る。
二人の若き学者の卵は、未知なるエネルギーの発見に胸躍らせていた。
「カウントダウン開始。10……9……8……」
遮蔽された観測室から、二つの電極が左右に対抗配置されてる円筒形の透明な放電管を見つめる二人。
「6……5……4……」
早乙女の咽がゴクリと鳴った。
「3……2……1……照射!」
竜崎がスイッチを入れた。
……何も起きなかった。
「嘘だろ?! 何で何の反応も無いんだ?
竜崎! そっちはちゃんと動いているんだよな?」
「ああ、計器は正常だ。自家発電だからって訳でも無い。
くそぉ、いったい何が悪いって言うんだ!」
竜崎が両の拳でドンとコンソールパネルを叩いた。
「嘆いてるヒマがあったら再チェックだ! 竜崎!
最悪、一からやり直すつもりでやるんだよ。」
言うが早いか、偏光グラスの付いたフード状のマスクを脱ぎ捨てると、早乙女の手は入力用の操作パネルを目にも止まらぬ早さで操作し出した。
データが記録されたパンチテープが、カタカタと排出される。
「オレはあきらめが悪いんでな。
元々オレのわがままで始めた実験だ。どうする竜崎、投げ出しても俺は怒らんよ?」
目では排出されるパンチコードを読み取りながら、早乙女は声だけを竜崎に向けた。
「……ふざけるな」
その言葉にカチンときたのか、視界の悪いフードマスクを竜崎も脱ぎ捨てると、横から早乙女が読みかけのパンチテープを奪い取った。
「ココ! 入力ミスがあるじゃねーか!!
だからてめーには任しておけねーんだよ!!
発想力はてめーの方が上かも知れねーが、繊細さが足りねーっていつも言ってるだろ!
解析力は俺の方が上なんだよ!! 貸してみろ!」
早乙女を押し退けると、動き辛い防護服の大きな手袋をはめているとは思えない程の正確さで、竜崎は入力用パネルを操作する。
「お前はそっちで接続状態をチェックしてくれ。元々それが分担だろ?」
顔を上げた竜崎と、早乙女の目と目が合った。
二人がお互いの目を見て、ニヤリとする。
その時、再度雷が鳴った。
落ちた雷は木造校舎の避雷針を直撃する。
そして、それはアースされた地面に拡散する筈であった。
しかし……
「? 雷が落ちたのか?」
突然、地下室の室内灯が消えた。
再び暗闇に包まれた地下室で、手探りでケーブルの接続状態を確認する早乙女。
が、自家発電の機器が壊れた訳では無いようだ。
実験用の計器は動いている。
計器の設置されているメーターやランプだけが、真っ暗な地下室に居る二人の顔を照らしていた。
「お、おい早乙女! これを見ろ!!」
竜崎が叫んだ。
それまで何も起こらなかった放電管が、突然青白い光を放ち始めていた。
「……これは……」
その青白い光。
それこそがまさに、早乙女が望んでいた、未知なるエネルギーが存在する証し。
「やったぞ竜崎! 成功だ!! オレ達成功したんだよ!!
くそぉ、世紀の大発見だぜ、こりゃぁ!!」
早乙女は両の拳を握りしめた。
あまりの感動に身体中の震えが止まらない。
その感動を分かち合おうと、竜崎の肩に手を回した。
同じように竜崎の身体も震えている。
青白い光が二人の成功を祝福するかのように、徐々に、徐々に強まって行く。
自らの偉業に陶酔しながら青白い光を見つめる早乙女だが、ふと、その手に違和感を感じた。
竜崎の身体の震え。
それは感動に震える早乙女の身体とは、まったく別の震え方だった。
「ああぁ………」
光を見つめる竜崎の身体はガクガクと揺れ、その顔は恐怖にひきつって行く。
「うぁぁ…………うあぁあぁぁぁ……」
「おい、どうした竜崎?」
竜崎は早乙女の手を振りほどくと、その場を逃げ出すように後ずさった。
「うわぁあああ!! いやだぁ……」
「竜崎……どうしたんだよ? 竜崎!」
理由は解らないが、竜崎はパニックを起こしていた。
冷静さを売り物にしている、普段の竜崎からは想像も出来ないほどの狼狽振りに、早乙女は唖然とする。
「いやだぁ……あれは……あの光は……………」
コンクリートの壁に阻まれそれ以上後ずさる事の出来ない竜崎は、それでも尚逃げ出したいのであろう。
貼り付くように背中で壁にもたれ掛かると、光から顔を背け、イヤイヤと首を振りながら叫んでいた。
「あの光は……ゲッター……だ…………<ゲッター>だぁぁあああぁあ!!!
うわぁぁああぁぁああああああ!!!!!」
早乙女には理解出来ぬ恐怖にガタガタと震える竜崎の顔は、真っ青だった。
目は見開き、歯はガチガチと音を立てている。
「……ゲッター?」
竜崎が恐怖の目を向ける視線の先、その青白い光を早乙女は見る。
光は一段と輝きを増し、放電管自体が発光しているかのように見えた。
次の瞬間、その発光は、地下室全てを自らの光の中に包んでいた。
明るくて温かくてまばゆい光。
青白い光だけが存在する世界に、早乙女は居た。
眩しさに細めていた目を少しずつ開く。
光以外、何も見えない筈のその世界にそれは存在した。
本当に存在したのかは、早乙女にも解らない。
もしかしたら、幻のような物だったのかも知れない。
そこに居ると感じただけなのかも知れない。
しかし早乙女は、そこに居る何かを確かに見ていた。
それは人の顔を持つ何かのようであった。
それは、赤と緑に色分けられた——亀甲の形を模した、人の顔のように思えた。
気が付くと青白い光は消え、早乙女は地下室に立っていた。
傍らでは竜崎が小さくうずくまり、頭を抱えガタガタと震えている。
「……今のは?」
我に返った早乙女には、光の中での出来事が、永遠であったとも一瞬であったとも思えていた。
To be continued.
↓NEXT
http://hiroz.asablo.jp/blog/2007/10/28/1875087
-------------
↓小説の目次&登場人物紹介&用語解説はコチラ
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/26/2846713
---Prologue---
稲妻が光った。
それまで眩しい程に輝いていた丸い月は、この時を境に変わってしまうであろう未来を知っているのか、今から起きる出来事に目を背けるかのように黒い雲の中に隠れてしまう。
垂れ込めた暗雲から降り出した大粒の雨が、誰も居ない木造校舎の窓ガラスを激しく叩く。
灯の消えた夜の校舎の中を、懐中電灯が照らす光を頼りに巡回していた警備員が、廊下に響き渡ったその雨音の大きさにびくりとする。
夜間の定時巡回をしているその若い警備員は、真っ黒な夜空を窓越しに見上げ、つぶやいた。
「もう秋だって言うのに、生暖かくて、なんだか嫌な雨だなぁ……」
一歩足を踏み出す毎に、廊下の床板がぎしりと鳴る。
「こっちはいつ来ても薄気味悪いんだよな……」
警備員が巡回しているこの大学院は、新設された鉄筋の校舎が建ち並ぶ、国内最先端の大学院である。
しかしながらこの木造の校舎だけが、戦後の復興から取り残されたかのように、敷地の隅にひっそりと建ち続けているのだ。
警備員がおじけるのも無理は無い。
戦前から建つこの校舎では、昔から、怪しい噂が絶えないのだから。
曰く、軍に指示され大量殺戮兵器を研究していた狂気の学者の怨念が、現在も彷徨っている。
曰く、その時に人体実験され命を失った多くの被験者のすすり泣く声が夜な夜な響き渡る。
等と、挙げれば切りの無い噂。
それが根も葉も無い噂と解ってはいても、気味が悪いものは悪い。
こんな夜だ。手短かに巡回を終わらせて、とっとと詰所に戻るのが利口というものさ。
そう決めると、警備員は足早に歩を進めていた。
防火設備の存在を示す紅いランプの傍に差し掛かった時、稲妻が落ちた。
夜空が一瞬だけ眩しく光り、轟音が鳴り響く。
落雷の音が極めて近い。
「ひっ!」
警備員は思わず身をすくめ、驚きのあまり懐中電灯を落としてしまった。
落とした拍子に電球でも切れたのか、懐中電灯の灯は消えてしまう。
「……落雷?」
警備員は窓の外を見た。
闇に包まれ、雨に遮られた周囲の風景に見えるものは何ひとつとして無く、窓を叩く豪雨の音だけが長い廊下にただただ響き渡る。
防火設備のランプだけが廊下を紅く照らしている。
嫌な汗が背中に流れた。
再びの稲光。
紅いランプがふっと消える。
立ちすくむ警備員。
「……停電?」
辺りが全て完全な闇に包まれた。
その時、警備員は気付かなかった。
窓の外——豪雨を降らせる暗雲の隙間から、鳥とは思えぬ程に大きく羽を広げた姿を持つ複数の影が、稲光の間を縫うように舞い降りて来た事に。
***
「……停電か?」
闇に包まれた部屋には影が二つ蠢いていた。
その二つの影は、まるで宇宙人のように見える異様な姿の服で全身を包み、目の所に大きな偏光グラスが埋め込まれたマスクを、頭から被っている。
「仕方無い。自家発電に切り替えよう」
言葉を受け、影の一人がごそごそと動いた。
手探りで、スイッチでも探しているようである。
しばらくすると、耳障りな機械音と共に室内灯が薄暗く光り出す。
室内灯に照らされたその部屋は、四方をコンクリートで囲まれた味気の無い地下室であった。
剥き出しのコンクリート壁の無機質さに違わぬように、部屋の中には最先端と思える無機質で巨大な機械が、所狭しと配置されている。
何やらそこは実験室のようである。
ひとつしかないその地下室の出入り口には、頑丈で強固な扉が設けられていた。
扉には、外にも中にもRIマーク(アールアイマーク:放射能標識)が、でかでかと描かれている。
二人組が異様な姿をしているのは、放射能の防護服を着込んでいるためのようだ。
「暗くないか?」
防護服を着た背の高い一人が訊ねる。
「仕方無いだろ? これ以上電力を余計な事には使えんよ」
背の低い方が答える。
背の高い方はあきらめるように肩をすくめると、マスクに遮られくぐもって聞こえる声で、こう言った。
「それでは、始めようか。早乙女」
噂が立つのにも理由がある。
その木造の校舎は、戦時中、確かに軍の研究施設と化していた。
もっとも大戦当時、軍に協力をしない学士施設など存在もしようが無い訳で、この学院とて例外では無かったという話なだけではあるが。
実用まで漕ぎ着けはしなかったが、核融合やそれ以上の研究も当然の如く行われていた。
木造校舎の地下実験室。
それこそが、その名残なのである。
そして終戦から10年程が経とうとしている現在、院生に解放され、実験施設として一部生徒の研究の根城となっていた。
防護服に身を包んだ二人の生徒。
背の低い男は早乙女と言い、背の高い男は竜崎と言う。
「出力調整、どうだ?」
「2.0……2.5……何とか行けそうだ」
二人は複雑な最新鋭の分析機器を一心不乱に調節する。
もしも早乙女の理論が正しければ、人類は無限のエネルギーを手にする事が出来るかも知れないのだ。
それは浅間山に落下した隕石を、早乙女が調査に出掛けた事が切っ掛けだった。
地球上には存在しない鉱物。
後に早乙女が<G鉱>と仮称した鉱物が、その隕石には内包されていた。
そしてその鉱物を精製する過程で、早乙女はあることに気付く。
宇宙線が<G鉱>を透過した際、極々微量ながら発せられる未知のエネルギーの存在を、理論上に示したのだ。
もしそのエネルギーを宇宙線から抽出する事が出来れば、人類はエネルギー問題から解放されるかも知れない。
それに気付いた時、早乙女は狂喜した。
幼い頃から描き続けている夢である宇宙開発が、未知なるエネルギーの存在によって、より現実的な物と化して行くかも知れないのだから。
宇宙線から直接エネルギーを取り入れる事が出来るのならば、重量のかさむロケット燃料を積み込む事も無い。
永遠の宇宙航行を行える船さえ造る事も可能だ。
未来図が早乙女の中で膨らんで行く。
だからこそこの日、親友の竜崎に協力を頼み、未知なるエネルギーの抽出実験を敢行するに至ったのである。
早乙女が一目置く程に優秀な学徒である竜崎ならば、信用が出来る。
二人の若き学者の卵は、未知なるエネルギーの発見に胸躍らせていた。
「カウントダウン開始。10……9……8……」
遮蔽された観測室から、二つの電極が左右に対抗配置されてる円筒形の透明な放電管を見つめる二人。
「6……5……4……」
早乙女の咽がゴクリと鳴った。
「3……2……1……照射!」
竜崎がスイッチを入れた。
……何も起きなかった。
「嘘だろ?! 何で何の反応も無いんだ?
竜崎! そっちはちゃんと動いているんだよな?」
「ああ、計器は正常だ。自家発電だからって訳でも無い。
くそぉ、いったい何が悪いって言うんだ!」
竜崎が両の拳でドンとコンソールパネルを叩いた。
「嘆いてるヒマがあったら再チェックだ! 竜崎!
最悪、一からやり直すつもりでやるんだよ。」
言うが早いか、偏光グラスの付いたフード状のマスクを脱ぎ捨てると、早乙女の手は入力用の操作パネルを目にも止まらぬ早さで操作し出した。
データが記録されたパンチテープが、カタカタと排出される。
「オレはあきらめが悪いんでな。
元々オレのわがままで始めた実験だ。どうする竜崎、投げ出しても俺は怒らんよ?」
目では排出されるパンチコードを読み取りながら、早乙女は声だけを竜崎に向けた。
「……ふざけるな」
その言葉にカチンときたのか、視界の悪いフードマスクを竜崎も脱ぎ捨てると、横から早乙女が読みかけのパンチテープを奪い取った。
「ココ! 入力ミスがあるじゃねーか!!
だからてめーには任しておけねーんだよ!!
発想力はてめーの方が上かも知れねーが、繊細さが足りねーっていつも言ってるだろ!
解析力は俺の方が上なんだよ!! 貸してみろ!」
早乙女を押し退けると、動き辛い防護服の大きな手袋をはめているとは思えない程の正確さで、竜崎は入力用パネルを操作する。
「お前はそっちで接続状態をチェックしてくれ。元々それが分担だろ?」
顔を上げた竜崎と、早乙女の目と目が合った。
二人がお互いの目を見て、ニヤリとする。
その時、再度雷が鳴った。
落ちた雷は木造校舎の避雷針を直撃する。
そして、それはアースされた地面に拡散する筈であった。
しかし……
「? 雷が落ちたのか?」
突然、地下室の室内灯が消えた。
再び暗闇に包まれた地下室で、手探りでケーブルの接続状態を確認する早乙女。
が、自家発電の機器が壊れた訳では無いようだ。
実験用の計器は動いている。
計器の設置されているメーターやランプだけが、真っ暗な地下室に居る二人の顔を照らしていた。
「お、おい早乙女! これを見ろ!!」
竜崎が叫んだ。
それまで何も起こらなかった放電管が、突然青白い光を放ち始めていた。
「……これは……」
その青白い光。
それこそがまさに、早乙女が望んでいた、未知なるエネルギーが存在する証し。
「やったぞ竜崎! 成功だ!! オレ達成功したんだよ!!
くそぉ、世紀の大発見だぜ、こりゃぁ!!」
早乙女は両の拳を握りしめた。
あまりの感動に身体中の震えが止まらない。
その感動を分かち合おうと、竜崎の肩に手を回した。
同じように竜崎の身体も震えている。
青白い光が二人の成功を祝福するかのように、徐々に、徐々に強まって行く。
自らの偉業に陶酔しながら青白い光を見つめる早乙女だが、ふと、その手に違和感を感じた。
竜崎の身体の震え。
それは感動に震える早乙女の身体とは、まったく別の震え方だった。
「ああぁ………」
光を見つめる竜崎の身体はガクガクと揺れ、その顔は恐怖にひきつって行く。
「うぁぁ…………うあぁあぁぁぁ……」
「おい、どうした竜崎?」
竜崎は早乙女の手を振りほどくと、その場を逃げ出すように後ずさった。
「うわぁあああ!! いやだぁ……」
「竜崎……どうしたんだよ? 竜崎!」
理由は解らないが、竜崎はパニックを起こしていた。
冷静さを売り物にしている、普段の竜崎からは想像も出来ないほどの狼狽振りに、早乙女は唖然とする。
「いやだぁ……あれは……あの光は……………」
コンクリートの壁に阻まれそれ以上後ずさる事の出来ない竜崎は、それでも尚逃げ出したいのであろう。
貼り付くように背中で壁にもたれ掛かると、光から顔を背け、イヤイヤと首を振りながら叫んでいた。
「あの光は……ゲッター……だ…………<ゲッター>だぁぁあああぁあ!!!
うわぁぁああぁぁああああああ!!!!!」
早乙女には理解出来ぬ恐怖にガタガタと震える竜崎の顔は、真っ青だった。
目は見開き、歯はガチガチと音を立てている。
「……ゲッター?」
竜崎が恐怖の目を向ける視線の先、その青白い光を早乙女は見る。
光は一段と輝きを増し、放電管自体が発光しているかのように見えた。
次の瞬間、その発光は、地下室全てを自らの光の中に包んでいた。
明るくて温かくてまばゆい光。
青白い光だけが存在する世界に、早乙女は居た。
眩しさに細めていた目を少しずつ開く。
光以外、何も見えない筈のその世界にそれは存在した。
本当に存在したのかは、早乙女にも解らない。
もしかしたら、幻のような物だったのかも知れない。
そこに居ると感じただけなのかも知れない。
しかし早乙女は、そこに居る何かを確かに見ていた。
それは人の顔を持つ何かのようであった。
それは、赤と緑に色分けられた——亀甲の形を模した、人の顔のように思えた。
気が付くと青白い光は消え、早乙女は地下室に立っていた。
傍らでは竜崎が小さくうずくまり、頭を抱えガタガタと震えている。
「……今のは?」
我に返った早乙女には、光の中での出来事が、永遠であったとも一瞬であったとも思えていた。
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http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/26/2846713
コメント
_ ひろz ― 2007年10月26日 03時56分08秒
_ カゼ ― 2007年10月26日 20時39分35秒
連載開始、おめでとう御座います!
プロローグでここまで面白いとは…!
ひろzさんの、ゲッターへの愛がひしひしと伝わって来ます。
7年前から考えてたのが凄いですね…。
続きも楽しみにしてます!
ああでも、どうぞ御無理はしないで下さいね。
プロローグでここまで面白いとは…!
ひろzさんの、ゲッターへの愛がひしひしと伝わって来ます。
7年前から考えてたのが凄いですね…。
続きも楽しみにしてます!
ああでも、どうぞ御無理はしないで下さいね。
_ ひろz ― 2007年10月26日 22時04分53秒
★カゼさん
コメントありがとうございます。
ぼちぼち仕事も忙しい時期に突入するので、小説に関してはのんびりやりたいと思ってます。
>7年前から考えてたのが凄い
ていうか、その頃に思い付いた後、単にずっと放置してたダケと言いますか(笑)。
現在、プロットをまとめ上げた時点で、「コレ、目茶苦茶面白いっすー!!」と島本和彦並の自画自賛をしちゃう程、私の頭の中では面白い話になっています。
どうぞ、御期待ください。
さて、後はソレをホントに面白く書けるかどうかが大問題(笑)。
コメントありがとうございます。
ぼちぼち仕事も忙しい時期に突入するので、小説に関してはのんびりやりたいと思ってます。
>7年前から考えてたのが凄い
ていうか、その頃に思い付いた後、単にずっと放置してたダケと言いますか(笑)。
現在、プロットをまとめ上げた時点で、「コレ、目茶苦茶面白いっすー!!」と島本和彦並の自画自賛をしちゃう程、私の頭の中では面白い話になっています。
どうぞ、御期待ください。
さて、後はソレをホントに面白く書けるかどうかが大問題(笑)。
_ ひろz ― 2008年03月21日 21時45分07秒
一部修正しました。
いやぁ、早乙女と竜崎の二人には、ちゃんとゲッター線を浴びてもらいたかったので(笑)。
いやぁ、早乙女と竜崎の二人には、ちゃんとゲッター線を浴びてもらいたかったので(笑)。
_ ひろz ― 2008年03月24日 10時26分49秒
>ちゃんとゲッター線を浴びてもらいたかったので(笑)
って、ああ!
文中に「遮蔽された観測室から」って書いちゃってるよ!
ううっ……状況的にもコッチの方が正しいからなぁ。
直せないや_| ̄|○
元々、「ゲッター線って、旧来の防護服では透過してしまう」ってつもりで書いてたんで、いいか(笑)。
(ソレが量子物理学的に正しいのかどうかが不明だったんで、直に浴びせちゃえ。って思い直したワケですが)
ダメなら、ケーブルのチェックするタメに早乙女が扉でも開けてたってコトにしといてください(笑)。
いやホラ、放電管の発光が始まったのは不測の事故が原因だし。
まだ実験のスイッチを入れるつもりも無かったので、実験室と観測室をつなぐ扉を開けっ放しにしていたと。
ダメすか?(笑)
って、ああ!
文中に「遮蔽された観測室から」って書いちゃってるよ!
ううっ……状況的にもコッチの方が正しいからなぁ。
直せないや_| ̄|○
元々、「ゲッター線って、旧来の防護服では透過してしまう」ってつもりで書いてたんで、いいか(笑)。
(ソレが量子物理学的に正しいのかどうかが不明だったんで、直に浴びせちゃえ。って思い直したワケですが)
ダメなら、ケーブルのチェックするタメに早乙女が扉でも開けてたってコトにしといてください(笑)。
いやホラ、放電管の発光が始まったのは不測の事故が原因だし。
まだ実験のスイッチを入れるつもりも無かったので、実験室と観測室をつなぐ扉を開けっ放しにしていたと。
ダメすか?(笑)
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コレばかりは、流石に勝手に付ける訳にはいかんからなぁ〜。
なんつーか、SF小説を書くには科学知識が異常に乏しいので、用語ひとつ取ってみても、いちいちネット検索かけながら書いてます。すげー大変。
科学知識どころか、大学に通ったコトの無い私は大学と大学院の違いもよく解って無かったりするので、それすら検索(笑)。
いやぁ、Wikipediaって便利ですね。
なので、色んな所で破綻や勘違いが氾濫してるかと思いますが、御了承ください。
実はこのお話、大元はHPを立ち上げた頃に考えてたお話でして、つまりはかれこれ7年くらい前になるのかな? なんですよ。
何が言いたいのかと言うと、これから語られるであろうこのお話の根幹を成す「とある設定」は、『ゲッターロボ號』までしか世に出ていなかった頃(もしかしたら『真ゲッターロボ』が不定期連載中なのかな?)に考えたモノなんですよ!
細かく話すと書いてもいない小説のネタばらしになってしまうのでやめますが、ホントなんです!
というコトを先に知っておいて欲しくて、ついこんなコトを書いてしまいました。