原作ゲッターを久々に読んで ― 2008年05月26日 02時07分20秒
石川漫画版ゲッターを久々に読んで思ったコト。
『ゲッターロボ』第12章「百鬼帝国の陰謀」で、
リョウが記憶を失い、包帯まみれで早乙女を襲うシーン。
逃走した包帯男を「あれは確かにリョウだ」と言う早乙女に、反論するハヤト。
「あれはリョウなんかじゃねぇ
あいつの目は野獣だった
理性のねぇケダモノの目だった
あんなのがリョウのハズがねぇ」
……野獣でケダモノ。それこそ石川ゲッターのリョウの姿では?(笑)
『ゲッターロボ』第12章「百鬼帝国の陰謀」で、
リョウが記憶を失い、包帯まみれで早乙女を襲うシーン。
逃走した包帯男を「あれは確かにリョウだ」と言う早乙女に、反論するハヤト。
「あれはリョウなんかじゃねぇ
あいつの目は野獣だった
理性のねぇケダモノの目だった
あんなのがリョウのハズがねぇ」
……野獣でケダモノ。それこそ石川ゲッターのリョウの姿では?(笑)
ゲッターロボ-The beginning- 010(第2章) ― 2008年05月26日 06時56分08秒
***
夕焼けが街を包み、はしゃぎながら家路へと向かう子供達の影を長く伸ばしている。
民家と民家の間にはまだ草むらが生い茂る原っぱの多いこの時代、子供達にとっては帰り道だって遊び場なのだ。
友達とのかくれんぼに気を取られていたのか、隠れている友達を探すのに夢中な鬼役の子供が、立ち止まっていた人影にぶつかって尻餅を着いた。
「いてて……ごめんなさい」
子供は立ち上がり、ペコリと会釈をすると再び友達と駆け出して行った。
その時、子供は気付かなかったのだ。
その、時期の早いトレンチコートを着込んだ男の顔を見上げずに頭を下げていたから。
目深に被ったソフトハットに隠れたその緑色の顔を、見る事が無かったから。
早乙女たち三人は、大学院の近くにある仕出し屋で山程買い込んだおにぎりや惣菜の包みを抱え、竜崎の下宿へと向かっていた。
「リッキー。歩きながら食べるの、はしたないわよ」
中身がぎっしりと詰まった茶色い紙袋を両手で抱え込んで歩くリッキーに、和子は呆れ気味である。
「だってあそこのおにぎり、すっごく美味しいんだよ。
この塩加減が絶妙〜♪」
リッキーは竜崎の下宿に着くまで我慢が出来ないのか、胸に抱え込んだ紙袋を落とさぬように器用におにぎりを食べながら歩いている。
「んもう、リッキーったら。
でも、それ本当に一人で食べるつもりなの?」
ぶっちゃけ、リッキーが抱え込んでいる大きな紙袋の中身は全てリッキーのみが食べる分である。
和子と早乙女と美奈子用に買った分は、早乙女の抱える袋の中。
つまりは三人前を越える量をリッキーは一人で食べるつもりなのだ。
毎度の事とは言え、和子はリッキーのその食欲に驚嘆するばかりである。
「うん。今日ちょっと運動しちゃったからね。
お腹減っちゃって減っちゃって」
「あら? 今日ってずっと私と一緒だったじゃない。
私が美奈子さんを送ってた間に、何かしたの?」
——やばいっ!
二人のやりとりを聞いていた早乙女の顔が青くなった。
和子にはチンピラヤクザに頼まれて竜崎を探しに行った事を、まだ話していないのだ。
竜崎の事はまだしも、チンピラに関わった事を知られたらどんな雷が落ちるか解らない。
「な、なぁリッキー。お前ソレ、持って来ちまったのか?」
早乙女は慌てて会話を逸らそうと紙袋で塞がっている両手の代わりに顎を動かし、リッキーの腰にぶら下がっている二本の鉄製のトンファーを指した。
トンファーとは琉球武術等で用いられる武具の一種で、約45センチメートル程の長さの棒の片端近くに握りとなる短い柄が垂直に付けられた形状の物である。
棒が腕に沿うように柄を握ると防御に適し、握ったまま柄を中心に180度回転させ、棒が相手の方に向くように握り直すとリーチが棒の分だけ伸びるため、攻撃に適す事になる。
また、棒と握りは完全なL字型では無く、棒が腕に沿うように握った場合でも拳の位置より先に棒が少し突き出すため、その状態でもトンファーの打撃を加える事が出来る。
そのため、むしろ裏拳や肘系の格闘術の延長として用いられる事も多く、持ち方を変えるだけで一瞬に変わるその二種類のリーチは実戦での間合いの駆け引きにおいて極めて有益であり、使いこなせればとても便利な武具と言える。
本来のトンファーは木製なのだが、リッキーの腰にぶら下がっているそれは敷島教授の特製であり、鉄製でそのサイズも太さも通常のトンファーより二回りは大きい物となっていた。
「うん。だってコレ、面白そうなんだもん」
リッキーは食べていたおにぎりの残りをポイと口の中に放り込むと、とぼけた顔をして指を親指から順に舐めている。
や、別にとぼけているわけでは無い。それがリッキーの素なのだ。
「よく敷島教授が貸してくれたな?」
「えへへ。黙って持って来ちゃった」
リッキーはペロリと舌を出した。
「後で怒られるぞ?」
眉をひそめながら早乙女が言うと、悪びれもせずにリッキーは袋から新しいおにぎりを取り出し、バクついた。
「大丈夫大丈夫。アタシ、敷島センセとは仲いいから。
これまでだって何も言われ無かったし。
むしろ『使うんならデータをちゃんと持って帰って来い』って言われてるくらいだもん」
つまりは敷島教授の珍発明の体の好いモニター役という訳である。
「だって竜崎があんなになっちゃってたワケだしさ、こういうの使う事もあるんじゃないかって気がするのよね〜
アタシのカン、当るんだから」
それは、確かにそうかも知れない……
早乙女がうなずこうとした時、和子が口を挟んだ。
「え? リッキー、竜崎君を見付けたの?」
しまった! と早乙女が思った時は既に遅かった。
「あれ? 早乙女から聞いてない?
昼間のチンピラに案内されて、竜崎に会いに行ったんだよアタシ達」
早乙女が和子に秘密にしようと思った事は、こうして全てがリッキーからバレてしまうのである。
悪気が無い分、始末に負えない。
「あ? もしかしてチンピラと関わった事がバレるといけないから、内緒にしていたとか?
そうなの早乙女?」
思った事は全て口に出してしまうのがリッキーだ。
そこまで言われてしまっては早乙女だって身も蓋も無い。
それもあるけど、それだけでは無いのだ。
竜崎の変貌した姿を和子に、いや田宮美奈子にどう伝えればいいのか早乙女は今でも悩んでいるのだから。
「早乙女くんのバカっ!!」
和子の言葉に早乙女は首をすくめた。
が、その「バカっ!」はいつもの雷では無かった。
「何でそれを早く言わないのよ!
竜崎君を見付けたなら、早く美奈子さんに教えてあげなきゃ」
和子は駆け出していた。
まだ会ったばかりの美奈子の事をそこまで心配してあげられる。和子はそういう女性なのだ。
三人は竜崎の下宿の手前まで来ていた。
「和子さん、ちょっと待ってよ」
荷物の多い早乙女とリッキーが和子の後から付いて来る。
和子が一足先に通りの角を曲がると、竜崎の下宿が目に入る。
「だって美奈子さん、心配してるのよ!」
後方に離れた早乙女の言葉に答えるため余所見をした拍子に、トレンチコートの男にぶつかってしまった。
「きゃっ。
やだ、すみませんでした」
頭を下げ通り過ぎようとした時、同じトレンチコートを着たもう一人の男に道を塞がれてしまう。
男は二人共、ソフトハットを目深に被っている。
「あの……通してもらえませんか?」
和子の行く手を阻むように不自然に立ち塞がる二人の男に、和子は違和感を感じた。
「すみません、急いでいるんですけど……」
「……ここハ、通セない」
男の声は無機質で聞き取り辛かった。
「え?」
和子が聞き返すと、男はノイズ混じりの無機質な声で言った。
「ギ……あのガキみたくナりたく無かっタら、引き返す事ダ」
和子は男が指差す草むらを見る。
夕陽で出来た木の影に隠れて見え辛かったが、そこには同じようにトレンチコートを着た男が生い茂る草むらの中に居るのが解った。
「ひっ!」
その男が何をしているのか理解した時、和子の全身が硬直した。
草むらの中に居るその男は、子供の内蔵を、腹を裂いて喰らっているのだ!!
腹を裂かれた子供の胴体に首は無く、傍らに血まみれの生首が転がっていた!
「もっトも、見られタからには帰す気は無いがナ」
和子は引きつった表情のまま話し掛ける男の顔を見上げる。
ソフトハットの下に隠れていたその顔は、口が耳まで裂け、細かい牙が生え揃い、角質化した鱗のような緑色の皮膚で覆われていた。
それは内蔵を喰らう男の顔と同じで、人間の物では無かった!!
「きゃぁあああああぁぁぁ!!!!」
あまりの恐怖に和子は叫び声を上げた!
………………化け物!!
和子の前に立つトレンチコートの二人の男は、人間とは掛け離れた異形の顔を持つ者であった。
To be continued.
↓NEXT
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↓小説の目次&登場人物紹介&用語解説はコチラ
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夕焼けが街を包み、はしゃぎながら家路へと向かう子供達の影を長く伸ばしている。
民家と民家の間にはまだ草むらが生い茂る原っぱの多いこの時代、子供達にとっては帰り道だって遊び場なのだ。
友達とのかくれんぼに気を取られていたのか、隠れている友達を探すのに夢中な鬼役の子供が、立ち止まっていた人影にぶつかって尻餅を着いた。
「いてて……ごめんなさい」
子供は立ち上がり、ペコリと会釈をすると再び友達と駆け出して行った。
その時、子供は気付かなかったのだ。
その、時期の早いトレンチコートを着込んだ男の顔を見上げずに頭を下げていたから。
目深に被ったソフトハットに隠れたその緑色の顔を、見る事が無かったから。
早乙女たち三人は、大学院の近くにある仕出し屋で山程買い込んだおにぎりや惣菜の包みを抱え、竜崎の下宿へと向かっていた。
「リッキー。歩きながら食べるの、はしたないわよ」
中身がぎっしりと詰まった茶色い紙袋を両手で抱え込んで歩くリッキーに、和子は呆れ気味である。
「だってあそこのおにぎり、すっごく美味しいんだよ。
この塩加減が絶妙〜♪」
リッキーは竜崎の下宿に着くまで我慢が出来ないのか、胸に抱え込んだ紙袋を落とさぬように器用におにぎりを食べながら歩いている。
「んもう、リッキーったら。
でも、それ本当に一人で食べるつもりなの?」
ぶっちゃけ、リッキーが抱え込んでいる大きな紙袋の中身は全てリッキーのみが食べる分である。
和子と早乙女と美奈子用に買った分は、早乙女の抱える袋の中。
つまりは三人前を越える量をリッキーは一人で食べるつもりなのだ。
毎度の事とは言え、和子はリッキーのその食欲に驚嘆するばかりである。
「うん。今日ちょっと運動しちゃったからね。
お腹減っちゃって減っちゃって」
「あら? 今日ってずっと私と一緒だったじゃない。
私が美奈子さんを送ってた間に、何かしたの?」
——やばいっ!
二人のやりとりを聞いていた早乙女の顔が青くなった。
和子にはチンピラヤクザに頼まれて竜崎を探しに行った事を、まだ話していないのだ。
竜崎の事はまだしも、チンピラに関わった事を知られたらどんな雷が落ちるか解らない。
「な、なぁリッキー。お前ソレ、持って来ちまったのか?」
早乙女は慌てて会話を逸らそうと紙袋で塞がっている両手の代わりに顎を動かし、リッキーの腰にぶら下がっている二本の鉄製のトンファーを指した。
トンファーとは琉球武術等で用いられる武具の一種で、約45センチメートル程の長さの棒の片端近くに握りとなる短い柄が垂直に付けられた形状の物である。
棒が腕に沿うように柄を握ると防御に適し、握ったまま柄を中心に180度回転させ、棒が相手の方に向くように握り直すとリーチが棒の分だけ伸びるため、攻撃に適す事になる。
また、棒と握りは完全なL字型では無く、棒が腕に沿うように握った場合でも拳の位置より先に棒が少し突き出すため、その状態でもトンファーの打撃を加える事が出来る。
そのため、むしろ裏拳や肘系の格闘術の延長として用いられる事も多く、持ち方を変えるだけで一瞬に変わるその二種類のリーチは実戦での間合いの駆け引きにおいて極めて有益であり、使いこなせればとても便利な武具と言える。
本来のトンファーは木製なのだが、リッキーの腰にぶら下がっているそれは敷島教授の特製であり、鉄製でそのサイズも太さも通常のトンファーより二回りは大きい物となっていた。
「うん。だってコレ、面白そうなんだもん」
リッキーは食べていたおにぎりの残りをポイと口の中に放り込むと、とぼけた顔をして指を親指から順に舐めている。
や、別にとぼけているわけでは無い。それがリッキーの素なのだ。
「よく敷島教授が貸してくれたな?」
「えへへ。黙って持って来ちゃった」
リッキーはペロリと舌を出した。
「後で怒られるぞ?」
眉をひそめながら早乙女が言うと、悪びれもせずにリッキーは袋から新しいおにぎりを取り出し、バクついた。
「大丈夫大丈夫。アタシ、敷島センセとは仲いいから。
これまでだって何も言われ無かったし。
むしろ『使うんならデータをちゃんと持って帰って来い』って言われてるくらいだもん」
つまりは敷島教授の珍発明の体の好いモニター役という訳である。
「だって竜崎があんなになっちゃってたワケだしさ、こういうの使う事もあるんじゃないかって気がするのよね〜
アタシのカン、当るんだから」
それは、確かにそうかも知れない……
早乙女がうなずこうとした時、和子が口を挟んだ。
「え? リッキー、竜崎君を見付けたの?」
しまった! と早乙女が思った時は既に遅かった。
「あれ? 早乙女から聞いてない?
昼間のチンピラに案内されて、竜崎に会いに行ったんだよアタシ達」
早乙女が和子に秘密にしようと思った事は、こうして全てがリッキーからバレてしまうのである。
悪気が無い分、始末に負えない。
「あ? もしかしてチンピラと関わった事がバレるといけないから、内緒にしていたとか?
そうなの早乙女?」
思った事は全て口に出してしまうのがリッキーだ。
そこまで言われてしまっては早乙女だって身も蓋も無い。
それもあるけど、それだけでは無いのだ。
竜崎の変貌した姿を和子に、いや田宮美奈子にどう伝えればいいのか早乙女は今でも悩んでいるのだから。
「早乙女くんのバカっ!!」
和子の言葉に早乙女は首をすくめた。
が、その「バカっ!」はいつもの雷では無かった。
「何でそれを早く言わないのよ!
竜崎君を見付けたなら、早く美奈子さんに教えてあげなきゃ」
和子は駆け出していた。
まだ会ったばかりの美奈子の事をそこまで心配してあげられる。和子はそういう女性なのだ。
三人は竜崎の下宿の手前まで来ていた。
「和子さん、ちょっと待ってよ」
荷物の多い早乙女とリッキーが和子の後から付いて来る。
和子が一足先に通りの角を曲がると、竜崎の下宿が目に入る。
「だって美奈子さん、心配してるのよ!」
後方に離れた早乙女の言葉に答えるため余所見をした拍子に、トレンチコートの男にぶつかってしまった。
「きゃっ。
やだ、すみませんでした」
頭を下げ通り過ぎようとした時、同じトレンチコートを着たもう一人の男に道を塞がれてしまう。
男は二人共、ソフトハットを目深に被っている。
「あの……通してもらえませんか?」
和子の行く手を阻むように不自然に立ち塞がる二人の男に、和子は違和感を感じた。
「すみません、急いでいるんですけど……」
「……ここハ、通セない」
男の声は無機質で聞き取り辛かった。
「え?」
和子が聞き返すと、男はノイズ混じりの無機質な声で言った。
「ギ……あのガキみたくナりたく無かっタら、引き返す事ダ」
和子は男が指差す草むらを見る。
夕陽で出来た木の影に隠れて見え辛かったが、そこには同じようにトレンチコートを着た男が生い茂る草むらの中に居るのが解った。
「ひっ!」
その男が何をしているのか理解した時、和子の全身が硬直した。
草むらの中に居るその男は、子供の内蔵を、腹を裂いて喰らっているのだ!!
腹を裂かれた子供の胴体に首は無く、傍らに血まみれの生首が転がっていた!
「もっトも、見られタからには帰す気は無いがナ」
和子は引きつった表情のまま話し掛ける男の顔を見上げる。
ソフトハットの下に隠れていたその顔は、口が耳まで裂け、細かい牙が生え揃い、角質化した鱗のような緑色の皮膚で覆われていた。
それは内蔵を喰らう男の顔と同じで、人間の物では無かった!!
「きゃぁあああああぁぁぁ!!!!」
あまりの恐怖に和子は叫び声を上げた!
………………化け物!!
和子の前に立つトレンチコートの二人の男は、人間とは掛け離れた異形の顔を持つ者であった。
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ゲッターロボ-The beginning- 011(第2章) ― 2008年05月26日 06時59分12秒
「和子さん!?」
和子の悲鳴に早乙女とリッキーが慌てて角を曲がる。
二人は和子の腕を取る二人の男の姿を見て驚愕する。
その男達は、あたかも人の姿を模したハ虫類のように見えた。
二足歩行をするハ虫類がトレンチコートを着て、和子を襲っているのだ。
和子を掴むその手は鱗で覆われ、鋭い爪が伸びている。
人間の物では無い。
早乙女は男達の姿に一瞬怯んだものの、買い物袋に手を入れ茹で卵を掴むと異形の者に向かって投げ付けた!
「化け物! 和子さんを放しやがれ!!」
茹で卵は異形の者の目にヒットし、砕けた。
卵の殻がヘビのような男の目に刺さる。
「グギャァアアァァ!!」
男は自分の顔を押さえると掴んでいた和子の腕を放した。
和子はその隙に逃げ出す。
早乙女の元に駆け寄った。
リッキーが和子を庇うように前に出て、早乙女と並ぶ。
「和子さん! 大丈夫か?」
早乙女の問いに、ガチガチと歯を鳴らしながら和子は頷いた。
あまりの恐怖に声は出ないが、早乙女たちが間髪入れずに来てくれたため怪我はしていない。
「さ、早乙女!! 何アレ? ば、バケモンだよ?!」
トレンチコートの男達と相対して、まじまじとその顔を見たリッキーが驚きの声を上げた。
「ああ。オレにもそう見える」
短気でキレ易いが、こういう異常な事態になればなるほど先ず冷静になるのが早乙女である。
「まるでハ虫類……ヘビだワニだというより……恐竜人間みたいだな、ありゃあ」
そう、恐竜。
人間サイズの小型の恐竜が、二本足で立っているというのが的確である。
「こ、子供が…………子供が……」
恐怖に脅える和子が声を何とか絞り出し、震える手で草むらを指差す。
草むらを見た二人の目に首と胴体の離れた子供の死体が目に入った。
裂かれた胴体からは内臓が飛び出している。
——酷い!!
「きさまらぁ!!!」
怒りに目の前が真っ赤になった早乙女が動き出す前に、恐竜人間は動いていた。
草むらに目を移した一瞬の隙を狙われたのだ!
「キシャァァアアア!!」
奇声のような叫び声を上げ、目の前に立っていた二匹の恐竜人間が早乙女に飛び掛かった。
一匹は3メートル以上飛び上がった上空から、一匹は地を這うように足元から襲いかかる!
速いっ!!
早乙女は片足を軸にして回転しながら上体をひねるように一匹を交わすと同時に、足元を狙って来た一匹を蹴り上げた。
宙を飛んで来た一匹の爪が除けきれなかった買い物を裂き、おにぎりや惣菜を地面に散らばせた。
二匹のあまりの素早さに早乙女の反応がコンマ数秒遅れたのだ。
リッキーは買い物袋を放り投げ腰に差していた二本のトンファーを取り出すと、その片方で早乙女が交わした一匹の顔面を打ち抜いた。
グシャッ!!
骨が砕ける鈍い音と共に、恐竜人間の顔がメリ込んだ!
「ギャァァァ!!!」
叫び声を上げてのたうち回る恐竜人間。
「リッキー! 後ろ!!」
トンファーで一匹を打ち抜いたリッキーの背後に子供を喰らっていた一匹が飛び掛かるのを見て、和子が叫んだ!
恐竜人間の鋭い歯がリッキーの首筋を狙う。
ガキッッ!!
リッキーは振り向かぬままにただ腕を上げ、首筋をトンファーでガードする。
恐竜人間の歯は鉄製のトンファーに噛み付き、折れた。
リッキーは噛み付かれたままにトンファーを恐竜人間ごと振り回す。
宙を泳ぐ恐竜人間。早乙女がハイキックをブチ込んだ!
「グギャ!!」
何というコンビネーション!!
不意を突かれた事を意にも介さない程、早乙女とリッキーの息は合っている。
「早乙女、何よコイツら?!」
「オレが知るか!!」
こんな化け物共の事など知る訳が無い。
唯一つ解っているのは、この異形の者共が明らかに自分達に敵意を持って襲って来ている事だ。
しかもこの異形の者共は、尋常じゃ無い程の身体能力を持ち合わせている。
少しでも気を抜けば、早乙女たち三人は瞬く間に草むらに転がる少年と同じ姿になってしまうであろう。
この状況は兎に角不利だ。
早乙女とリッキーだけならまだしも、和子を守りながらでは思う様に戦えない。
「和子さん、逃げろ! 逃げるんだ!!
ここはオレ達がなんとかする!!」
背中越しに和子に声を掛ける。
和子は恐怖に震えながらも軽くうなずくと、踵を返し、走り出す。
二人の足手まといにならぬよう和子は必死で走った。
逃げ出す和子の姿を見付けた恐竜人間は、そうはさせじと和子に向かって跳んだ!
「させないよっ!!」
リッキーがトンファーの握りを変える。
突き出すように伸びたトンファーの先で跳躍する恐竜人間の腹を打ち抜く!!
が、
「うわっ!!」
トンファーの先端は、かすめただけだ。
リッキーは足に激痛が走ってバランスを崩したのだ。
足元に倒れていた恐竜人間が、リッキーの足に噛み付いていた。
「このぉ!!」
リッキーは噛み付く一匹にトンファーを打ち下ろす!
恐竜人間は素早く離れ、それを交わした。
先程のリッキーの一撃で陥没しているとは思えない程の素早さである!
人間なら確実に死んでいる筈の一撃を喰らっていても尚、奴等は俊敏に動くのだ!!
「……嘘でしょ?」
不死身とも思える異形の者達の生命力に、リッキーは絶句した。
リッキーが逃した和子を追う一匹を追い掛けようとした早乙女だが、トンファーで歯の欠けた恐竜人間に阻まれてしまった。
鋭い爪が矢継ぎ早に早乙女を襲う。
早乙女の衣服は裂け、頬には細かい裂傷が増えて行く。
「きゃぁあ!!」
和子の短い悲鳴が上がった!
和子が恐竜人間に殴打され、激痛に気を失ったのだ!!
「和子さん!!」
和子の悲鳴に反応が遅れた早乙女が、歯の欠けた一匹の一撃を腹部にもらってしまう。
「ぐえっ……」
内臓がえぐられるような一撃!!
早乙女の腰が沈む。
早乙女は歯を食い縛りその一撃に耐えた。
恐竜人間は間髪入れずに早乙女の顔面を狙う!
早乙女はさらに腰を沈め、空を切った歯欠けの一匹の腕を取り、そそまま背負い、投げた!!
一本背負いが綺麗に決まった!
和子を殴打した一匹は、和子の胸倉を掴みその首筋に牙を立ている。
「きさまぁ!!!」
早乙女は二つの下駄を手にすると、和子を襲う一匹に向かって走り出すと同時にそのひとつを投げ付ける。
投げ付けた下駄が恐竜人間の頭にヒットした。
和子を襲う一匹が、振り返る。
その振り返りざまに目掛けて早乙女は下駄を手にしたまま殴り付けた!
それは走り抜ける加速の付いた、文字通り必殺の早乙女下駄パンチ!!
宙に舞う恐竜人間。
早乙女はその隙に和子を引き起こし、原っぱに積まれている土管の影に和子を寝かせた。
和子の頬には殴打された跡が痛々しく腫れ上がっている。
「和子さん! 大丈夫か?! 和子さん!!」
和子の肩を軽く揺すり、早乙女は声を掛ける。
「う……うぅ……」
息はある。
早乙女は安堵の溜め息を吐くと、怒りに我を忘れた。
和子を襲った奴と歯欠けの二匹が、土管の影に居る早乙女たちに向かってにじり寄って来る。
「きさまらぁあああぁ!!!!」
早乙女は立ち上がると、怒りにまかせ積まれている土管を一本持ち上げ始めた。
直径1メートル30センチ、長さ5メートル程のコンクリート製の土管である!
「うおぉぉおおおお!!!」
両腕の筋肉から血管が浮き上がる。
早乙女は抱えるように、その大きな土管を持ち上げた!
「喰らいやがれェ!!」
早乙女は土管を野球のバットでも振り回すかのように、横に薙ぐ!
二匹の恐竜人間は逃げる間も無く、一気に薙ぎ払われた!!
「ギャァア!!」
倒れた二匹に向かい早乙女は土管を投げ付ける。
グチャッ!!
一匹の胴体を土管が押し潰した!
が、歯欠けの一匹には素早く跳躍されよけられてしまう。
「早乙女ぇ! ダメだよコイツら、キリ無いよ!!」
リッキーが掛け寄って来た。
リッキーが相対していた一匹の顔は陥没し、片腕は取れ、残る腕の関節はあらぬ方を向いているというのに、それでもリッキーを追い掛けて来ている。
リッキーの全身には細かい裂傷や打撲傷が出来ていて、その格闘の壮絶さを物語っていた。
早乙女も呼吸は荒く、肩で息をしている。
不死身とも思える化け物達を相手に、このままではジリ貧である。
土管に潰された一匹の身体が動いた。
土管の下敷きになって動かぬ下半身を自ら引き千切り、上半身だけで抜け出そうとしているのだ。
「うっ……」
その異様さに、吐き気が咽まで上がって来る。
あんなになってもまだ生きてるというのか?
こんな奴等相手に、これ以上どうやって戦えばいいと言うのだ!!
考える間も与えぬように、早乙女に攻撃の焦点を合わせた二匹が一気に跳び掛かった!
「リッキー! そいつを貸せ!!」
早乙女の言葉にリッキーが二本のトンファーを投げた。
早乙女はトンファーを受け取ると、トンファーを銃のように握り、柄の底部にあるスイッチ——セーフティスイッチを外した!
早乙女はまるで二挺拳銃で狙いを定めるかの如く両手を広げて、二本の鉄製のトンファーの先端を迫って来る二匹に向ける。
化け物達までの距離、約3メートル!
セーフティを外した事で飛び出した、トリガーを引く!!
ドワッ!!
発射音と共に鬼のような反動が早乙女の腕を襲う。
肩が抜ける程の衝撃。
トンファーから飛び出したのは小型のロケット弾!
化け物達に着弾し、炸薬が、破裂する!!
「グギャァアアアアアアァアアァ!!!!」
ドンッ!!
爆音と共に、二匹の恐竜人間の身体は四散していた。
早乙女は燃え燻りながら落ちてくる肉片の中を、土管から抜け出ようとしている最後の一匹に向かい歩き出す。
何とか身体を引き千切れた最後の一匹は、這いずりながら、早乙女の気配に振り仰いだ。
早乙女はそんな恐竜人間を見つめ、無表情のまま思い切りトンファーを顔面に突き刺した。
頭部を串刺しにされた異形の者は、今度こそ、動く事は無かった。
「こんな仕掛けがあったんだ、コレ」
リッキーが唖然としながら、早乙女から返してもらったトンファーを眺めている。
「気付かなかったのか?
さっきも敷島教授の研究室で、ソレ暴発させてたじゃないか」
早乙女は呆れた。
「いや、ほら、あそこにある物ってさ、アタシが触るとみんな爆発しちゃうからさ。
コレが特別そうとは……」
リッキーはバツが悪そうに頭を掻いた。
「ソレ、バズーカトンファーって言うんだよ」
早乙女はバズーカの反動で痛めた肩を、確認するようにくるくると回した。
「この前、作った時に自慢されたんだ。
あの人もとんでも無いモノを作るよな、まったく。
なんだよあの反動。
フツーの人間じゃ、絶対肩を持ってかれるって。撃てないよ、ソレ。
もっと考えて作ってくれってんだ」
つまる所、そんな物を撃てる早乙女は普通では無いのだ。
幸い、肩は何とも無いようである。
「だからさ、リッキーの使い方見ててドキドキもんだったよ。
いつ中のロケット弾が暴発するんじゃないかって、もうヒヤヒヤ」
リッキーは、中にロケット弾が仕込まれているトンファーで相手を直接殴り付けていたのだ。
振動でいつ暴発するか解ったものでは無い。
というより、打撃武具であるトンファーと、ロケット弾を充填しているバズ−カをひとつにまとめようとする方が間違っている。
「まぁ。リッキーなら暴発慣れしてるから、心配はしなかったけどね」
リッキーを茶化す早乙女の表情に、ようやく笑みが戻った。
安堵の空気が二人に流れる。
「和子、大丈夫なの?」
「気を失ってるだけみたいだけど、とにかく医者に見せないとね。
それとオレ達、早くココから立ち去った方がいいかも」
この騒ぎを聞きつけ、近所の住民が騒ぎ出している声がした。
そりゃ、ロケット弾が爆発してるのだ。
普通、騒ぎになる。
倒れている和子をリッキーが抱き上げようとした時、ガラスが割れる音がした。
竜崎の部屋の方だ!
「何だ?」
早乙女が音の方に向かうと、二階にある竜崎の部屋からいくつもの人影が飛び出して来た!!
To be continued.
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http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/26/2846713
和子の悲鳴に早乙女とリッキーが慌てて角を曲がる。
二人は和子の腕を取る二人の男の姿を見て驚愕する。
その男達は、あたかも人の姿を模したハ虫類のように見えた。
二足歩行をするハ虫類がトレンチコートを着て、和子を襲っているのだ。
和子を掴むその手は鱗で覆われ、鋭い爪が伸びている。
人間の物では無い。
早乙女は男達の姿に一瞬怯んだものの、買い物袋に手を入れ茹で卵を掴むと異形の者に向かって投げ付けた!
「化け物! 和子さんを放しやがれ!!」
茹で卵は異形の者の目にヒットし、砕けた。
卵の殻がヘビのような男の目に刺さる。
「グギャァアアァァ!!」
男は自分の顔を押さえると掴んでいた和子の腕を放した。
和子はその隙に逃げ出す。
早乙女の元に駆け寄った。
リッキーが和子を庇うように前に出て、早乙女と並ぶ。
「和子さん! 大丈夫か?」
早乙女の問いに、ガチガチと歯を鳴らしながら和子は頷いた。
あまりの恐怖に声は出ないが、早乙女たちが間髪入れずに来てくれたため怪我はしていない。
「さ、早乙女!! 何アレ? ば、バケモンだよ?!」
トレンチコートの男達と相対して、まじまじとその顔を見たリッキーが驚きの声を上げた。
「ああ。オレにもそう見える」
短気でキレ易いが、こういう異常な事態になればなるほど先ず冷静になるのが早乙女である。
「まるでハ虫類……ヘビだワニだというより……恐竜人間みたいだな、ありゃあ」
そう、恐竜。
人間サイズの小型の恐竜が、二本足で立っているというのが的確である。
「こ、子供が…………子供が……」
恐怖に脅える和子が声を何とか絞り出し、震える手で草むらを指差す。
草むらを見た二人の目に首と胴体の離れた子供の死体が目に入った。
裂かれた胴体からは内臓が飛び出している。
——酷い!!
「きさまらぁ!!!」
怒りに目の前が真っ赤になった早乙女が動き出す前に、恐竜人間は動いていた。
草むらに目を移した一瞬の隙を狙われたのだ!
「キシャァァアアア!!」
奇声のような叫び声を上げ、目の前に立っていた二匹の恐竜人間が早乙女に飛び掛かった。
一匹は3メートル以上飛び上がった上空から、一匹は地を這うように足元から襲いかかる!
速いっ!!
早乙女は片足を軸にして回転しながら上体をひねるように一匹を交わすと同時に、足元を狙って来た一匹を蹴り上げた。
宙を飛んで来た一匹の爪が除けきれなかった買い物を裂き、おにぎりや惣菜を地面に散らばせた。
二匹のあまりの素早さに早乙女の反応がコンマ数秒遅れたのだ。
リッキーは買い物袋を放り投げ腰に差していた二本のトンファーを取り出すと、その片方で早乙女が交わした一匹の顔面を打ち抜いた。
グシャッ!!
骨が砕ける鈍い音と共に、恐竜人間の顔がメリ込んだ!
「ギャァァァ!!!」
叫び声を上げてのたうち回る恐竜人間。
「リッキー! 後ろ!!」
トンファーで一匹を打ち抜いたリッキーの背後に子供を喰らっていた一匹が飛び掛かるのを見て、和子が叫んだ!
恐竜人間の鋭い歯がリッキーの首筋を狙う。
ガキッッ!!
リッキーは振り向かぬままにただ腕を上げ、首筋をトンファーでガードする。
恐竜人間の歯は鉄製のトンファーに噛み付き、折れた。
リッキーは噛み付かれたままにトンファーを恐竜人間ごと振り回す。
宙を泳ぐ恐竜人間。早乙女がハイキックをブチ込んだ!
「グギャ!!」
何というコンビネーション!!
不意を突かれた事を意にも介さない程、早乙女とリッキーの息は合っている。
「早乙女、何よコイツら?!」
「オレが知るか!!」
こんな化け物共の事など知る訳が無い。
唯一つ解っているのは、この異形の者共が明らかに自分達に敵意を持って襲って来ている事だ。
しかもこの異形の者共は、尋常じゃ無い程の身体能力を持ち合わせている。
少しでも気を抜けば、早乙女たち三人は瞬く間に草むらに転がる少年と同じ姿になってしまうであろう。
この状況は兎に角不利だ。
早乙女とリッキーだけならまだしも、和子を守りながらでは思う様に戦えない。
「和子さん、逃げろ! 逃げるんだ!!
ここはオレ達がなんとかする!!」
背中越しに和子に声を掛ける。
和子は恐怖に震えながらも軽くうなずくと、踵を返し、走り出す。
二人の足手まといにならぬよう和子は必死で走った。
逃げ出す和子の姿を見付けた恐竜人間は、そうはさせじと和子に向かって跳んだ!
「させないよっ!!」
リッキーがトンファーの握りを変える。
突き出すように伸びたトンファーの先で跳躍する恐竜人間の腹を打ち抜く!!
が、
「うわっ!!」
トンファーの先端は、かすめただけだ。
リッキーは足に激痛が走ってバランスを崩したのだ。
足元に倒れていた恐竜人間が、リッキーの足に噛み付いていた。
「このぉ!!」
リッキーは噛み付く一匹にトンファーを打ち下ろす!
恐竜人間は素早く離れ、それを交わした。
先程のリッキーの一撃で陥没しているとは思えない程の素早さである!
人間なら確実に死んでいる筈の一撃を喰らっていても尚、奴等は俊敏に動くのだ!!
「……嘘でしょ?」
不死身とも思える異形の者達の生命力に、リッキーは絶句した。
リッキーが逃した和子を追う一匹を追い掛けようとした早乙女だが、トンファーで歯の欠けた恐竜人間に阻まれてしまった。
鋭い爪が矢継ぎ早に早乙女を襲う。
早乙女の衣服は裂け、頬には細かい裂傷が増えて行く。
「きゃぁあ!!」
和子の短い悲鳴が上がった!
和子が恐竜人間に殴打され、激痛に気を失ったのだ!!
「和子さん!!」
和子の悲鳴に反応が遅れた早乙女が、歯の欠けた一匹の一撃を腹部にもらってしまう。
「ぐえっ……」
内臓がえぐられるような一撃!!
早乙女の腰が沈む。
早乙女は歯を食い縛りその一撃に耐えた。
恐竜人間は間髪入れずに早乙女の顔面を狙う!
早乙女はさらに腰を沈め、空を切った歯欠けの一匹の腕を取り、そそまま背負い、投げた!!
一本背負いが綺麗に決まった!
和子を殴打した一匹は、和子の胸倉を掴みその首筋に牙を立ている。
「きさまぁ!!!」
早乙女は二つの下駄を手にすると、和子を襲う一匹に向かって走り出すと同時にそのひとつを投げ付ける。
投げ付けた下駄が恐竜人間の頭にヒットした。
和子を襲う一匹が、振り返る。
その振り返りざまに目掛けて早乙女は下駄を手にしたまま殴り付けた!
それは走り抜ける加速の付いた、文字通り必殺の早乙女下駄パンチ!!
宙に舞う恐竜人間。
早乙女はその隙に和子を引き起こし、原っぱに積まれている土管の影に和子を寝かせた。
和子の頬には殴打された跡が痛々しく腫れ上がっている。
「和子さん! 大丈夫か?! 和子さん!!」
和子の肩を軽く揺すり、早乙女は声を掛ける。
「う……うぅ……」
息はある。
早乙女は安堵の溜め息を吐くと、怒りに我を忘れた。
和子を襲った奴と歯欠けの二匹が、土管の影に居る早乙女たちに向かってにじり寄って来る。
「きさまらぁあああぁ!!!!」
早乙女は立ち上がると、怒りにまかせ積まれている土管を一本持ち上げ始めた。
直径1メートル30センチ、長さ5メートル程のコンクリート製の土管である!
「うおぉぉおおおお!!!」
両腕の筋肉から血管が浮き上がる。
早乙女は抱えるように、その大きな土管を持ち上げた!
「喰らいやがれェ!!」
早乙女は土管を野球のバットでも振り回すかのように、横に薙ぐ!
二匹の恐竜人間は逃げる間も無く、一気に薙ぎ払われた!!
「ギャァア!!」
倒れた二匹に向かい早乙女は土管を投げ付ける。
グチャッ!!
一匹の胴体を土管が押し潰した!
が、歯欠けの一匹には素早く跳躍されよけられてしまう。
「早乙女ぇ! ダメだよコイツら、キリ無いよ!!」
リッキーが掛け寄って来た。
リッキーが相対していた一匹の顔は陥没し、片腕は取れ、残る腕の関節はあらぬ方を向いているというのに、それでもリッキーを追い掛けて来ている。
リッキーの全身には細かい裂傷や打撲傷が出来ていて、その格闘の壮絶さを物語っていた。
早乙女も呼吸は荒く、肩で息をしている。
不死身とも思える化け物達を相手に、このままではジリ貧である。
土管に潰された一匹の身体が動いた。
土管の下敷きになって動かぬ下半身を自ら引き千切り、上半身だけで抜け出そうとしているのだ。
「うっ……」
その異様さに、吐き気が咽まで上がって来る。
あんなになってもまだ生きてるというのか?
こんな奴等相手に、これ以上どうやって戦えばいいと言うのだ!!
考える間も与えぬように、早乙女に攻撃の焦点を合わせた二匹が一気に跳び掛かった!
「リッキー! そいつを貸せ!!」
早乙女の言葉にリッキーが二本のトンファーを投げた。
早乙女はトンファーを受け取ると、トンファーを銃のように握り、柄の底部にあるスイッチ——セーフティスイッチを外した!
早乙女はまるで二挺拳銃で狙いを定めるかの如く両手を広げて、二本の鉄製のトンファーの先端を迫って来る二匹に向ける。
化け物達までの距離、約3メートル!
セーフティを外した事で飛び出した、トリガーを引く!!
ドワッ!!
発射音と共に鬼のような反動が早乙女の腕を襲う。
肩が抜ける程の衝撃。
トンファーから飛び出したのは小型のロケット弾!
化け物達に着弾し、炸薬が、破裂する!!
「グギャァアアアアアアァアアァ!!!!」
ドンッ!!
爆音と共に、二匹の恐竜人間の身体は四散していた。
早乙女は燃え燻りながら落ちてくる肉片の中を、土管から抜け出ようとしている最後の一匹に向かい歩き出す。
何とか身体を引き千切れた最後の一匹は、這いずりながら、早乙女の気配に振り仰いだ。
早乙女はそんな恐竜人間を見つめ、無表情のまま思い切りトンファーを顔面に突き刺した。
頭部を串刺しにされた異形の者は、今度こそ、動く事は無かった。
「こんな仕掛けがあったんだ、コレ」
リッキーが唖然としながら、早乙女から返してもらったトンファーを眺めている。
「気付かなかったのか?
さっきも敷島教授の研究室で、ソレ暴発させてたじゃないか」
早乙女は呆れた。
「いや、ほら、あそこにある物ってさ、アタシが触るとみんな爆発しちゃうからさ。
コレが特別そうとは……」
リッキーはバツが悪そうに頭を掻いた。
「ソレ、バズーカトンファーって言うんだよ」
早乙女はバズーカの反動で痛めた肩を、確認するようにくるくると回した。
「この前、作った時に自慢されたんだ。
あの人もとんでも無いモノを作るよな、まったく。
なんだよあの反動。
フツーの人間じゃ、絶対肩を持ってかれるって。撃てないよ、ソレ。
もっと考えて作ってくれってんだ」
つまる所、そんな物を撃てる早乙女は普通では無いのだ。
幸い、肩は何とも無いようである。
「だからさ、リッキーの使い方見ててドキドキもんだったよ。
いつ中のロケット弾が暴発するんじゃないかって、もうヒヤヒヤ」
リッキーは、中にロケット弾が仕込まれているトンファーで相手を直接殴り付けていたのだ。
振動でいつ暴発するか解ったものでは無い。
というより、打撃武具であるトンファーと、ロケット弾を充填しているバズ−カをひとつにまとめようとする方が間違っている。
「まぁ。リッキーなら暴発慣れしてるから、心配はしなかったけどね」
リッキーを茶化す早乙女の表情に、ようやく笑みが戻った。
安堵の空気が二人に流れる。
「和子、大丈夫なの?」
「気を失ってるだけみたいだけど、とにかく医者に見せないとね。
それとオレ達、早くココから立ち去った方がいいかも」
この騒ぎを聞きつけ、近所の住民が騒ぎ出している声がした。
そりゃ、ロケット弾が爆発してるのだ。
普通、騒ぎになる。
倒れている和子をリッキーが抱き上げようとした時、ガラスが割れる音がした。
竜崎の部屋の方だ!
「何だ?」
早乙女が音の方に向かうと、二階にある竜崎の部屋からいくつもの人影が飛び出して来た!!
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