6.28 萬画家石ノ森章太郎展行ってきた。2019年07月01日 17時52分57秒

今回思い入れが深すぎて超長文です。

私は石ノ森章太郎が好きだ。(以下、時代に合わせ石森表記あり)
1976年(昭和51年)6月25日(初版発行日/実売日ではないかも)に『ゲッターロボG』の最終第3巻が出て次に買うマンガ単行本が無くなった小学校高学年の私は(いや内山まもるの『ひょうたん』は買ってたけど)「序盤は本が厚いし、単行本も10巻も続いているならきっと面白いだろう」と秋田書店サンデーコミックスの『サイボーグ009』第3巻を買ってみた。何故第3巻から買ったかと言うと「その中でも一番厚かった」から。
貧乏少年特有のそんな理由で買ったこの本が、面白かったのだ。
3巻と言えば「ベトナム編」。あと「黄金のライオン編」と「クビクロ編」。
ぶっちゃけ、小学校高学年にはワケわからん話だったのですが(だってベトナム編ってベトコン出てくるんですよ)、面白かった。
そしてこの時が、それまで仮面ライダーやゴレンジャーの「ただの原作者」だった石森章太郎が「漫画家」として自分の中で明確に分岐した瞬間だった。

でまぁ、その後は『009』を全巻揃えたり(含む『サイボーグ009 その世界』。当時で定価2,900円/「神々との戦い編」は当時単行本ではこれでしか読めなかった/私はいつ買ったんだろう……中三か高校生くらいなのかな?)、『仮面ライダー』『キカイダー』『イナズマン』『ロボット刑事』の原作マンガを揃えたりしたわけですが、やはり衝撃だったのはマンガで詩を描いてしまった『ジュン - 章太郎のファンタジーワールド』ですね。

その辺りの原画が見れるといいなー。と思い、世田谷文学館というそれなりに近場で「萬画家石ノ森章太郎展」がやってるというので観に行きました。

展覧会、石森先生の生原稿が見れて良かったです。
良かった……のですが、最近原画展に行きすぎてるせいか「生原稿だからこそ思う、おおっ! という感動」がイマイチ薄かったのが自分でも不思議。
何故だろうと色々考えたんですが、石森萬画の魅力はストーリー、コマ割、コマ内の構図、という全体を引いた時に見える「イメージ」が特段に魅力であって、それは「印刷されたものでも劣化されずに変わらず表現出来ているもの」だから。なのかなー? と考えてみたり。
実際石森先生のキャラ絵の主線のペンタッチってその作画スピードに違わず描き飛ばすくらいにラフなので、原画でみると結構荒いんですよね。それが勢いがあって小気味いい線だったりはするんですが。
印刷される時は縮小されるのでラフなタッチも縮小されるじゃないですか。なので仕上がりである「印刷後の状態こそが作品」という目線で描いているから、原画と印刷に差異が無く、感動がイマイチ薄かったんですかね?(もちろんスミベタのムラとはあるので原画と印刷に差異がまったく無いわけではありません。そういうことではない)
印刷状態と制作スピードまで計算して、ラフに描いていたということか? 
(カケアミとかは細かくて綺麗なのですが、ここはきっとアシさんが描かれたんだろうな。という目線で見てしまったのも理由のひとつかも?)
『仮面ライダー』の冒頭カラーから本郷がルリ子さんに緑川博士殺しを誤解されるまでの連ページの展示があったのですが、(おー、ココ切り貼りかーとかいう感動は置いといて)一番おおっ! と思ったとこって「くも男が初めてアップになるシーン」でしたから。それってコマ割や演出での感動なので、印刷物で受ける感動でも質は変わらないですよね。
(あー、でも数日経ったこの文章を2〜3度推敲してる今、反芻してみると冒頭カラーとか、原稿見れてすげー良かった! って思える!! 遅れて来る感動)

『サイボーグ009』の原画は「神々との戦い編」が多くて感激。美麗さ的には「エッダ編」とかの原稿も見たかった。
「神々との戦い編」の原稿見ての感想は「「神々との戦い編」ですら、まだ青エンピツ塗りで網点の製版指定してるのか」。
昔は61番とか基本的な網点模様はスクリーントーンを貼らずに青エンピツで塗って、製版屋に指定で網点を作ってもらっていたんですよ。スクリーントーンが無い時代の話ですね。
さすがに「神々との戦い編」になると網点以外の模様のスクリーントーンは貼られていますが、俗に言う「61番」とかだけは貼られずに青エンピツが塗られてました。
とは言え「神々との戦い編」って1969年(昭和44年)執筆なのか! それではまだそういう時代なのかも。
自分、『サイボーグ009』は執筆から10年後に読み始めているので、リアルタイム感覚が執筆年+10年なんですよね。(少年サンデーコミックス版である「ネオ・ブラックゴースト編」以降はリアルタイム)
てか1969年(昭和44年)に「神々との戦い編」描いてるって凄くね?
どこかで「時代的にも弟子の永井豪に影響されて石森も神と悪魔の戦いを描かざるを得なかった」みたいな言説を見かけたけど、『デビルマン』は1972年(昭和47年)なのでそれはまったくの嘘ですね。『魔王ダンテ』ですら1971年(昭和46年)だし。
「天使編」って「冒険王」1969年6月号で終わって「神々との戦い編」が「COM」1969年10月号で始まってるって3ヶ月しか間が空いてないのか! それも凄い話だ。
既述のように自分は「天使編」から「神々との戦い編」を読むまで4〜5年の間が空いているので、そんなにすぐ『009』が再開したとは思わなかった。

そして『ジュン』の原画!
石森原画で特に見たかったのは『009』の「神々との戦い編」と『ジュン』だったので、展示がストライク過ぎる。
行って良かった!
『ジュン』の原画を見てて、確か「『まんが研究会』では薄墨は不可(一般的にもまんが原稿に薄墨は不可/当時)」と言ってたような気がしたけど、バリバリ薄墨使ってるな! てかエンピツ線のままの原稿もありますよ!
さすが実験作品の『ジュン』。
展示されてた『ジュン』の原稿見てて、石森先生はやはり東北生まれなんだな。と思えた。
感受性のベースが「雪」なんですよね。雪の慕情を描くのが上手い。

あと、複製原画だったけど『幻魔大戦』の1巻のカバーイラストと『イナズマン』の連載第1回扉絵ってスケッチブックに描かれていたんですね! 原稿にスケッチブックのリング穴の切れ端があった。
(記憶のみで書いているので違うイラストだったらすみません)
また、石森先生の作業机を再現したスペースには「石ノ森なりきりグッズ」が置いてあったので、着けてみました(笑)。
最後に東日本大震災の石ノ森漫画館の被災から復興までの展示もあり、石ノ森キャラは震災にも消されることなく共に復興へと歩むシンボルたり得た様が伝わります。

「感動がイマイチ薄かった」なんて書き出ししてるけど、こんなに長々と書くなんて、あんた十二分に堪能してんじゃん! と改めて思うくらい、良い展覧会でした。
どれくらい良かったかと言うと「現在『幻魔大戦Rebirth』の単行本を買ってるし、『幻魔大戦』は単行本を田舎置きにしたままで手元にないから文庫本買うか!」と物販で買ってしまうくらい良かったです。
『009』スタンプラリーもやりましたよ。