ゲッターロボ-The beginning- 011(第2章)2008年05月26日 06時59分12秒

「和子さん!?」
 和子の悲鳴に早乙女とリッキーが慌てて角を曲がる。
 二人は和子の腕を取る二人の男の姿を見て驚愕する。
 その男達は、あたかも人の姿を模したハ虫類のように見えた。
 二足歩行をするハ虫類がトレンチコートを着て、和子を襲っているのだ。
 和子を掴むその手は鱗で覆われ、鋭い爪が伸びている。
 人間の物では無い。 
 早乙女は男達の姿に一瞬怯んだものの、買い物袋に手を入れ茹で卵を掴むと異形の者に向かって投げ付けた!
「化け物! 和子さんを放しやがれ!!」
 茹で卵は異形の者の目にヒットし、砕けた。
 卵の殻がヘビのような男の目に刺さる。
「グギャァアアァァ!!」
 男は自分の顔を押さえると掴んでいた和子の腕を放した。
 和子はその隙に逃げ出す。
 早乙女の元に駆け寄った。
 リッキーが和子を庇うように前に出て、早乙女と並ぶ。
「和子さん! 大丈夫か?」
 早乙女の問いに、ガチガチと歯を鳴らしながら和子は頷いた。
 あまりの恐怖に声は出ないが、早乙女たちが間髪入れずに来てくれたため怪我はしていない。
「さ、早乙女!! 何アレ? ば、バケモンだよ?!」
 トレンチコートの男達と相対して、まじまじとその顔を見たリッキーが驚きの声を上げた。
「ああ。オレにもそう見える」
 短気でキレ易いが、こういう異常な事態になればなるほど先ず冷静になるのが早乙女である。
「まるでハ虫類……ヘビだワニだというより……恐竜人間みたいだな、ありゃあ」
 そう、恐竜。
 人間サイズの小型の恐竜が、二本足で立っているというのが的確である。
「こ、子供が…………子供が……」
 恐怖に脅える和子が声を何とか絞り出し、震える手で草むらを指差す。
 草むらを見た二人の目に首と胴体の離れた子供の死体が目に入った。
 裂かれた胴体からは内臓が飛び出している。
 ——酷い!!
「きさまらぁ!!!」
 怒りに目の前が真っ赤になった早乙女が動き出す前に、恐竜人間は動いていた。
 草むらに目を移した一瞬の隙を狙われたのだ!
「キシャァァアアア!!」
 奇声のような叫び声を上げ、目の前に立っていた二匹の恐竜人間が早乙女に飛び掛かった。
 一匹は3メートル以上飛び上がった上空から、一匹は地を這うように足元から襲いかかる!
 速いっ!!
 早乙女は片足を軸にして回転しながら上体をひねるように一匹を交わすと同時に、足元を狙って来た一匹を蹴り上げた。
 宙を飛んで来た一匹の爪が除けきれなかった買い物を裂き、おにぎりや惣菜を地面に散らばせた。
 二匹のあまりの素早さに早乙女の反応がコンマ数秒遅れたのだ。
 リッキーは買い物袋を放り投げ腰に差していた二本のトンファーを取り出すと、その片方で早乙女が交わした一匹の顔面を打ち抜いた。
 グシャッ!!
 骨が砕ける鈍い音と共に、恐竜人間の顔がメリ込んだ!
「ギャァァァ!!!」
 叫び声を上げてのたうち回る恐竜人間。
「リッキー! 後ろ!!」
 トンファーで一匹を打ち抜いたリッキーの背後に子供を喰らっていた一匹が飛び掛かるのを見て、和子が叫んだ!
 恐竜人間の鋭い歯がリッキーの首筋を狙う。
 ガキッッ!!
 リッキーは振り向かぬままにただ腕を上げ、首筋をトンファーでガードする。
 恐竜人間の歯は鉄製のトンファーに噛み付き、折れた。
 リッキーは噛み付かれたままにトンファーを恐竜人間ごと振り回す。
 宙を泳ぐ恐竜人間。早乙女がハイキックをブチ込んだ!
「グギャ!!」
 何というコンビネーション!!
 不意を突かれた事を意にも介さない程、早乙女とリッキーの息は合っている。
「早乙女、何よコイツら?!」
「オレが知るか!!」
 こんな化け物共の事など知る訳が無い。
 唯一つ解っているのは、この異形の者共が明らかに自分達に敵意を持って襲って来ている事だ。
 しかもこの異形の者共は、尋常じゃ無い程の身体能力を持ち合わせている。
 少しでも気を抜けば、早乙女たち三人は瞬く間に草むらに転がる少年と同じ姿になってしまうであろう。
 この状況は兎に角不利だ。
 早乙女とリッキーだけならまだしも、和子を守りながらでは思う様に戦えない。
「和子さん、逃げろ! 逃げるんだ!!
 ここはオレ達がなんとかする!!」
 背中越しに和子に声を掛ける。
 和子は恐怖に震えながらも軽くうなずくと、踵を返し、走り出す。
 二人の足手まといにならぬよう和子は必死で走った。
 逃げ出す和子の姿を見付けた恐竜人間は、そうはさせじと和子に向かって跳んだ!
「させないよっ!!」
 リッキーがトンファーの握りを変える。
 突き出すように伸びたトンファーの先で跳躍する恐竜人間の腹を打ち抜く!!
 が、
「うわっ!!」
 トンファーの先端は、かすめただけだ。
 リッキーは足に激痛が走ってバランスを崩したのだ。
 足元に倒れていた恐竜人間が、リッキーの足に噛み付いていた。
「このぉ!!」
 リッキーは噛み付く一匹にトンファーを打ち下ろす!
 恐竜人間は素早く離れ、それを交わした。
 先程のリッキーの一撃で陥没しているとは思えない程の素早さである!
 人間なら確実に死んでいる筈の一撃を喰らっていても尚、奴等は俊敏に動くのだ!!
「……嘘でしょ?」
 不死身とも思える異形の者達の生命力に、リッキーは絶句した。

 リッキーが逃した和子を追う一匹を追い掛けようとした早乙女だが、トンファーで歯の欠けた恐竜人間に阻まれてしまった。
 鋭い爪が矢継ぎ早に早乙女を襲う。
 早乙女の衣服は裂け、頬には細かい裂傷が増えて行く。
「きゃぁあ!!」
 和子の短い悲鳴が上がった!
 和子が恐竜人間に殴打され、激痛に気を失ったのだ!!
「和子さん!!」
 和子の悲鳴に反応が遅れた早乙女が、歯の欠けた一匹の一撃を腹部にもらってしまう。
「ぐえっ……」
 内臓がえぐられるような一撃!!
 早乙女の腰が沈む。
 早乙女は歯を食い縛りその一撃に耐えた。
 恐竜人間は間髪入れずに早乙女の顔面を狙う!
 早乙女はさらに腰を沈め、空を切った歯欠けの一匹の腕を取り、そそまま背負い、投げた!!
 一本背負いが綺麗に決まった!
 和子を殴打した一匹は、和子の胸倉を掴みその首筋に牙を立ている。
「きさまぁ!!!」
 早乙女は二つの下駄を手にすると、和子を襲う一匹に向かって走り出すと同時にそのひとつを投げ付ける。
 投げ付けた下駄が恐竜人間の頭にヒットした。
 和子を襲う一匹が、振り返る。
 その振り返りざまに目掛けて早乙女は下駄を手にしたまま殴り付けた!
 それは走り抜ける加速の付いた、文字通り必殺の早乙女下駄パンチ!!
 宙に舞う恐竜人間。
 早乙女はその隙に和子を引き起こし、原っぱに積まれている土管の影に和子を寝かせた。
 和子の頬には殴打された跡が痛々しく腫れ上がっている。
「和子さん! 大丈夫か?! 和子さん!!」
 和子の肩を軽く揺すり、早乙女は声を掛ける。
「う……うぅ……」
 息はある。
 早乙女は安堵の溜め息を吐くと、怒りに我を忘れた。
 和子を襲った奴と歯欠けの二匹が、土管の影に居る早乙女たちに向かってにじり寄って来る。
「きさまらぁあああぁ!!!!」
 早乙女は立ち上がると、怒りにまかせ積まれている土管を一本持ち上げ始めた。
 直径1メートル30センチ、長さ5メートル程のコンクリート製の土管である!
「うおぉぉおおおお!!!」
 両腕の筋肉から血管が浮き上がる。
 早乙女は抱えるように、その大きな土管を持ち上げた!
「喰らいやがれェ!!」
 早乙女は土管を野球のバットでも振り回すかのように、横に薙ぐ!
 二匹の恐竜人間は逃げる間も無く、一気に薙ぎ払われた!!
「ギャァア!!」
 倒れた二匹に向かい早乙女は土管を投げ付ける。
 グチャッ!!
 一匹の胴体を土管が押し潰した!
 が、歯欠けの一匹には素早く跳躍されよけられてしまう。
「早乙女ぇ! ダメだよコイツら、キリ無いよ!!」
 リッキーが掛け寄って来た。
 リッキーが相対していた一匹の顔は陥没し、片腕は取れ、残る腕の関節はあらぬ方を向いているというのに、それでもリッキーを追い掛けて来ている。
 リッキーの全身には細かい裂傷や打撲傷が出来ていて、その格闘の壮絶さを物語っていた。
 早乙女も呼吸は荒く、肩で息をしている。
 不死身とも思える化け物達を相手に、このままではジリ貧である。
 土管に潰された一匹の身体が動いた。
 土管の下敷きになって動かぬ下半身を自ら引き千切り、上半身だけで抜け出そうとしているのだ。
「うっ……」
 その異様さに、吐き気が咽まで上がって来る。
 あんなになってもまだ生きてるというのか?
 こんな奴等相手に、これ以上どうやって戦えばいいと言うのだ!!
 考える間も与えぬように、早乙女に攻撃の焦点を合わせた二匹が一気に跳び掛かった!
「リッキー! そいつを貸せ!!」
 早乙女の言葉にリッキーが二本のトンファーを投げた。
 早乙女はトンファーを受け取ると、トンファーを銃のように握り、柄の底部にあるスイッチ——セーフティスイッチを外した!
 早乙女はまるで二挺拳銃で狙いを定めるかの如く両手を広げて、二本の鉄製のトンファーの先端を迫って来る二匹に向ける。
 化け物達までの距離、約3メートル!
 セーフティを外した事で飛び出した、トリガーを引く!!
 ドワッ!!
 発射音と共に鬼のような反動が早乙女の腕を襲う。
 肩が抜ける程の衝撃。
 トンファーから飛び出したのは小型のロケット弾!
 化け物達に着弾し、炸薬が、破裂する!!
「グギャァアアアアアアァアアァ!!!!」
 ドンッ!!
 爆音と共に、二匹の恐竜人間の身体は四散していた。
 早乙女は燃え燻りながら落ちてくる肉片の中を、土管から抜け出ようとしている最後の一匹に向かい歩き出す。
 何とか身体を引き千切れた最後の一匹は、這いずりながら、早乙女の気配に振り仰いだ。
 早乙女はそんな恐竜人間を見つめ、無表情のまま思い切りトンファーを顔面に突き刺した。
 頭部を串刺しにされた異形の者は、今度こそ、動く事は無かった。

「こんな仕掛けがあったんだ、コレ」
 リッキーが唖然としながら、早乙女から返してもらったトンファーを眺めている。
「気付かなかったのか? 
 さっきも敷島教授の研究室で、ソレ暴発させてたじゃないか」
 早乙女は呆れた。
「いや、ほら、あそこにある物ってさ、アタシが触るとみんな爆発しちゃうからさ。
 コレが特別そうとは……」
 リッキーはバツが悪そうに頭を掻いた。
「ソレ、バズーカトンファーって言うんだよ」
 早乙女はバズーカの反動で痛めた肩を、確認するようにくるくると回した。
「この前、作った時に自慢されたんだ。
 あの人もとんでも無いモノを作るよな、まったく。
 なんだよあの反動。
 フツーの人間じゃ、絶対肩を持ってかれるって。撃てないよ、ソレ。
 もっと考えて作ってくれってんだ」
 つまる所、そんな物を撃てる早乙女は普通では無いのだ。
 幸い、肩は何とも無いようである。
「だからさ、リッキーの使い方見ててドキドキもんだったよ。
 いつ中のロケット弾が暴発するんじゃないかって、もうヒヤヒヤ」
 リッキーは、中にロケット弾が仕込まれているトンファーで相手を直接殴り付けていたのだ。
 振動でいつ暴発するか解ったものでは無い。
 というより、打撃武具であるトンファーと、ロケット弾を充填しているバズ−カをひとつにまとめようとする方が間違っている。
「まぁ。リッキーなら暴発慣れしてるから、心配はしなかったけどね」
 リッキーを茶化す早乙女の表情に、ようやく笑みが戻った。
 安堵の空気が二人に流れる。
「和子、大丈夫なの?」
「気を失ってるだけみたいだけど、とにかく医者に見せないとね。
 それとオレ達、早くココから立ち去った方がいいかも」
 この騒ぎを聞きつけ、近所の住民が騒ぎ出している声がした。
 そりゃ、ロケット弾が爆発してるのだ。
 普通、騒ぎになる。
 倒れている和子をリッキーが抱き上げようとした時、ガラスが割れる音がした。
 竜崎の部屋の方だ!
「何だ?」
 早乙女が音の方に向かうと、二階にある竜崎の部屋からいくつもの人影が飛び出して来た!!

 To be continued.

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↓小説の目次&登場人物紹介&用語解説はコチラ
http://hiroz.asablo.jp/blog/2008/03/26/2846713

コメント

_ ひろz ― 2008年05月26日 07時09分37秒

ボツ文章。
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 和子を襲う一匹が、振り返る。
 その振り返りざまに目掛けて、早乙女が下駄を手にしたまま殴り付けた!
 走り抜ける加速の付いた、文字通り必殺の早乙女下駄パンチ!!(登りっ!! ※下りはありません)
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状況的には滝沢国電パンチを思い浮かべてもらえればと思ったワケですが、
流石に上記のように「()付き」の島本ノリで書くことは出来ませんでした。
一応真面目な小説なので。
そりゃもう断腸の思いですよ(笑)。

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