ゲッターロボ-The beginning- 010(第2章)2008年05月26日 06時56分08秒

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 夕焼けが街を包み、はしゃぎながら家路へと向かう子供達の影を長く伸ばしている。
 民家と民家の間にはまだ草むらが生い茂る原っぱの多いこの時代、子供達にとっては帰り道だって遊び場なのだ。
 友達とのかくれんぼに気を取られていたのか、隠れている友達を探すのに夢中な鬼役の子供が、立ち止まっていた人影にぶつかって尻餅を着いた。
「いてて……ごめんなさい」
 子供は立ち上がり、ペコリと会釈をすると再び友達と駆け出して行った。
 その時、子供は気付かなかったのだ。 
 その、時期の早いトレンチコートを着込んだ男の顔を見上げずに頭を下げていたから。
 目深に被ったソフトハットに隠れたその緑色の顔を、見る事が無かったから。

 早乙女たち三人は、大学院の近くにある仕出し屋で山程買い込んだおにぎりや惣菜の包みを抱え、竜崎の下宿へと向かっていた。
「リッキー。歩きながら食べるの、はしたないわよ」
 中身がぎっしりと詰まった茶色い紙袋を両手で抱え込んで歩くリッキーに、和子は呆れ気味である。
「だってあそこのおにぎり、すっごく美味しいんだよ。
 この塩加減が絶妙〜♪」
 リッキーは竜崎の下宿に着くまで我慢が出来ないのか、胸に抱え込んだ紙袋を落とさぬように器用におにぎりを食べながら歩いている。
「んもう、リッキーったら。
 でも、それ本当に一人で食べるつもりなの?」
 ぶっちゃけ、リッキーが抱え込んでいる大きな紙袋の中身は全てリッキーのみが食べる分である。
 和子と早乙女と美奈子用に買った分は、早乙女の抱える袋の中。
 つまりは三人前を越える量をリッキーは一人で食べるつもりなのだ。
 毎度の事とは言え、和子はリッキーのその食欲に驚嘆するばかりである。
「うん。今日ちょっと運動しちゃったからね。
 お腹減っちゃって減っちゃって」
「あら? 今日ってずっと私と一緒だったじゃない。
 私が美奈子さんを送ってた間に、何かしたの?」
 ——やばいっ!
 二人のやりとりを聞いていた早乙女の顔が青くなった。
 和子にはチンピラヤクザに頼まれて竜崎を探しに行った事を、まだ話していないのだ。
 竜崎の事はまだしも、チンピラに関わった事を知られたらどんな雷が落ちるか解らない。
「な、なぁリッキー。お前ソレ、持って来ちまったのか?」
 早乙女は慌てて会話を逸らそうと紙袋で塞がっている両手の代わりに顎を動かし、リッキーの腰にぶら下がっている二本の鉄製のトンファーを指した。
 トンファーとは琉球武術等で用いられる武具の一種で、約45センチメートル程の長さの棒の片端近くに握りとなる短い柄が垂直に付けられた形状の物である。
 棒が腕に沿うように柄を握ると防御に適し、握ったまま柄を中心に180度回転させ、棒が相手の方に向くように握り直すとリーチが棒の分だけ伸びるため、攻撃に適す事になる。
 また、棒と握りは完全なL字型では無く、棒が腕に沿うように握った場合でも拳の位置より先に棒が少し突き出すため、その状態でもトンファーの打撃を加える事が出来る。
 そのため、むしろ裏拳や肘系の格闘術の延長として用いられる事も多く、持ち方を変えるだけで一瞬に変わるその二種類のリーチは実戦での間合いの駆け引きにおいて極めて有益であり、使いこなせればとても便利な武具と言える。
 本来のトンファーは木製なのだが、リッキーの腰にぶら下がっているそれは敷島教授の特製であり、鉄製でそのサイズも太さも通常のトンファーより二回りは大きい物となっていた。
「うん。だってコレ、面白そうなんだもん」
 リッキーは食べていたおにぎりの残りをポイと口の中に放り込むと、とぼけた顔をして指を親指から順に舐めている。
 や、別にとぼけているわけでは無い。それがリッキーの素なのだ。
「よく敷島教授が貸してくれたな?」
「えへへ。黙って持って来ちゃった」
 リッキーはペロリと舌を出した。
「後で怒られるぞ?」
 眉をひそめながら早乙女が言うと、悪びれもせずにリッキーは袋から新しいおにぎりを取り出し、バクついた。
「大丈夫大丈夫。アタシ、敷島センセとは仲いいから。
 これまでだって何も言われ無かったし。
 むしろ『使うんならデータをちゃんと持って帰って来い』って言われてるくらいだもん」
 つまりは敷島教授の珍発明の体の好いモニター役という訳である。
「だって竜崎があんなになっちゃってたワケだしさ、こういうの使う事もあるんじゃないかって気がするのよね〜
 アタシのカン、当るんだから」
 それは、確かにそうかも知れない……
 早乙女がうなずこうとした時、和子が口を挟んだ。
「え? リッキー、竜崎君を見付けたの?」
 しまった! と早乙女が思った時は既に遅かった。
「あれ? 早乙女から聞いてない?
 昼間のチンピラに案内されて、竜崎に会いに行ったんだよアタシ達」
 早乙女が和子に秘密にしようと思った事は、こうして全てがリッキーからバレてしまうのである。
 悪気が無い分、始末に負えない。
「あ? もしかしてチンピラと関わった事がバレるといけないから、内緒にしていたとか?
 そうなの早乙女?」
 思った事は全て口に出してしまうのがリッキーだ。
 そこまで言われてしまっては早乙女だって身も蓋も無い。
 それもあるけど、それだけでは無いのだ。
 竜崎の変貌した姿を和子に、いや田宮美奈子にどう伝えればいいのか早乙女は今でも悩んでいるのだから。
「早乙女くんのバカっ!!」
 和子の言葉に早乙女は首をすくめた。
 が、その「バカっ!」はいつもの雷では無かった。
「何でそれを早く言わないのよ!
 竜崎君を見付けたなら、早く美奈子さんに教えてあげなきゃ」
 和子は駆け出していた。
 まだ会ったばかりの美奈子の事をそこまで心配してあげられる。和子はそういう女性なのだ。
 三人は竜崎の下宿の手前まで来ていた。
「和子さん、ちょっと待ってよ」
 荷物の多い早乙女とリッキーが和子の後から付いて来る。
 和子が一足先に通りの角を曲がると、竜崎の下宿が目に入る。
「だって美奈子さん、心配してるのよ!」
 後方に離れた早乙女の言葉に答えるため余所見をした拍子に、トレンチコートの男にぶつかってしまった。
「きゃっ。
 やだ、すみませんでした」
 頭を下げ通り過ぎようとした時、同じトレンチコートを着たもう一人の男に道を塞がれてしまう。
 男は二人共、ソフトハットを目深に被っている。
「あの……通してもらえませんか?」 
 和子の行く手を阻むように不自然に立ち塞がる二人の男に、和子は違和感を感じた。
「すみません、急いでいるんですけど……」
「……ここハ、通セない」
 男の声は無機質で聞き取り辛かった。
「え?」
 和子が聞き返すと、男はノイズ混じりの無機質な声で言った。
「ギ……あのガキみたくナりたく無かっタら、引き返す事ダ」
 和子は男が指差す草むらを見る。
 夕陽で出来た木の影に隠れて見え辛かったが、そこには同じようにトレンチコートを着た男が生い茂る草むらの中に居るのが解った。
「ひっ!」
 その男が何をしているのか理解した時、和子の全身が硬直した。
 草むらの中に居るその男は、子供の内蔵を、腹を裂いて喰らっているのだ!!
 腹を裂かれた子供の胴体に首は無く、傍らに血まみれの生首が転がっていた!
「もっトも、見られタからには帰す気は無いがナ」
 和子は引きつった表情のまま話し掛ける男の顔を見上げる。
 ソフトハットの下に隠れていたその顔は、口が耳まで裂け、細かい牙が生え揃い、角質化した鱗のような緑色の皮膚で覆われていた。
 それは内蔵を喰らう男の顔と同じで、人間の物では無かった!!
「きゃぁあああああぁぁぁ!!!!」
 あまりの恐怖に和子は叫び声を上げた!
 ………………化け物!!
 和子の前に立つトレンチコートの二人の男は、人間とは掛け離れた異形の顔を持つ者であった。

To be continued.

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コメント

_ ひろz ― 2008年05月26日 07時08分01秒

書いてて思ったんですが、『ゲッターロボ』の「ハヤトの校舎」のエピソードで、ハチュウ人類は人間食べてましたよね。
その後、作劇上描かれなくなってしまうワケですが、ハチュウ人類はいつ人間食うのヤメたんでしょう?
『アーク』の頃には流石にヤメてないと、同盟組めないよな〜(笑)。
そうか! 『アーク』での人類&恐竜帝国同盟で感じた違和感の正体ってソレだったんだ。
と、この文書いてて今気付きました。

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